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昼は観光、夜はヘタレ……じゃなかったフロスト王子の愚痴聞き。それほど悪いことばかりでもない。フロスト王子は穴場スポットをよく知っている。
「あー、あの店ね。ガイドブックには載ってて有名だけど、すぐ近くの通りの店の方が美味しいし安いよ。肥料からこだわってる野菜使ってるからさぁ」
「なるほど、ガイドブックに載っているのは宣伝に金をかけている店か」
「評判はお金で買えるからね。あとは花火が上がる日があるんだ。綺麗だよ。みんな川辺に集まるけど高いところから見た方が綺麗に見えるかな。展望レストランなんかだと虫もこないし」
本当に王子?というくらいよく知っている。
「今日は遅かったがエレーナ嬢とはいろいろ話せたのか」
初日に引き続き昨日もフロスト王子の襲撃に遭いましたからね……私達。
観劇の後、帰ろうとして馬車の中で御者の恰好をしたフロスト王子が待っていた時にはビビりました。この人、スパイや探偵の方が向いてるんじゃないですかね……。そう告げると「ジェームズ・ボ〇ドとか? コナ〇かな? でもやっぱり王道のシャーロック・ホー〇ズだよねぇ。でも俺はモリ〇ーティ派!」と嬉しそうにされちゃいましたが。何を言っているかさっぱりわかりませんでした。
なので今日はもう諦めてあの怪しい酒場に来ています。どこにいてもこの王子、来そうなので……。
「うん。やっと顔と名前が一致して信用してもらえた感じ。でもさぁ……いいのかなぁ、エレーナ嬢、婚約者いるんでしょ?」
「初日にプロポーズかましておいて何を今さら」
確かに。激しく同意。何を今さら気にしているのか。
「いやぁ……会話の中で婚約者の話が出てくるとなんだかね……現実突き付けられた気分になるよね」
「あっちだって浮気してるんだ。女性だけ浮気したらいけないなんて不公平だろう」
「アッシュ、すごーい! それこそ男女平等だね」
ほんとに単純だな。この王子。
「お前はプロポーズまでしてるんだからヘタレるな。99回失敗しても最後の1回で相手が頷けば成功だ。ヘタレだろうが、白豚だろうが、育ちの良い牛だろうが、意思を貫いた者の勝ちだ。そしてそれがお前の価値になる」
アシュフォード様、毒舌から熱血系にいつから転向されたんですか。ヘタレ王子はめっちゃやる気になってるからいいけど。
「でもエレーナ嬢、洗脳されてるっぽいよね。だから不満があっても最後の最後で踏み出せない印象だなぁ」
「洗脳か……子供のころから教育と称して王家の観念を植え付けていればそれもそうだな」
「ラノベだと魅了かなぁ?って思ったりもしたけど。男性がかけられてるイメージがあるけどさ、女性がかけられるのもアリだよねぇ。でもこの世界、魔法ないし……やっぱり洗脳だよねぇ」
「らのべが何かは分からないが……前世の記憶では洗脳はどうやって解くんだ?」
「自分で解くしかないよ~。他人に解いてもらったらその人の洗脳に今度はかかっちゃうからね。洗脳されたくなかったら自分で頑張って解くしかないんだ」
「そうか」
この会話をしながら強面軍団さん達もポーカーをやっている。ぶっちぎりでアシュフォード様が強い。
「兄貴の初恋の相手だもんなぁ。相手にもう婚約者がいるって切ないな」
「お貴族様でなければ、邪魔な婚約者に変な壺買わせて破産させるのに……」
「俺だったら禁止薬物を相手の家に仕込んどいて、冤罪でしょっぴくな」
「俺だって殺して農場に埋めたらバレないし!」
「いや、それならうち肉屋だし。解体は任せろ」
強面軍団はまずい方向にやる気になっていた。