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「ふぇぇん」
「やかましい」
「えぐっ。ひどくない? プロポーズに失敗した俺のガラスのハートをさらに抉るなんて」
「自分でガラスのハートとか言うな」
目の前には床に正座しているフロスト王子。彼はなぜか給仕の服を着て、ぐちゃぐちゃになった薔薇の花束が彼の周りに散乱している。これ、片付けるの嫌なんですけど……。
「そもそもなんですぐプロポーズになるんだ。文通しかしていないのに」
「だってぇ……エレーナ嬢が予定より早く到着したって聞いたから……他の王子たちと会ったら競争に出遅れるじゃん」
「だってぇと語尾を伸ばすな。対外的に婚約者がいるんだからいきなりプロポーズしなくても大丈夫だっただろう」
海辺を散歩して朝ご飯を食べて(オレンジジュース付き)、サーカスを見に行って、海の見えるレストランでランチ。その後は本屋巡りをして宿の部屋でディナー、今はアシュフォード様と二人で買った本を読み漁っていたところだった。
奇跡的なくらい休暇らしい休暇だった。このフロスト王子が部屋にやってくるまでは。
「大体なんで私たちの部屋が分かったんだ」
「友達が勤務してるんだ。あと、リゾート施設にも友達が勤務してて。薔薇の花束も用意してくれたし、給仕で潜り込ませてくれたんだ」
この国にプライバシーなどないのか。というか王子、ヘタレなのに友達多いな。
「で、エレーナ嬢の反応は?」
「悲鳴上げてたから逃げてきたよ」
逃げるなよ……。エレーナ様、あなたのこと白豚だと思ってるんだから。
「お前は本当にヘタレだな」
アシュフォード様の深い深いため息が部屋に響く。ブランドン様やエドエド殿下とは違った方向でめんどくさい王子である。
「まぁいい。これからどうするつもりだ?」
「いやぁ……どうしたらいいか分かんなくって……来ちゃった。名乗って挨拶しただけで悲鳴上げられるほど嫌われてたのかもしれないし……」
来ちゃったって可愛く言ってもダメだから。
「じゃあ毎日プロポーズしろ。エレーナ嬢の滞在は1週間ほどだな。明日から3日通ってプロポーズして、2日間は休みだ。そして最終日はまたプロポーズに行け」
「え、どゆこと? なんで2日休むの? 毎日じゃなくて?」
こちらが不安になるくらい素直だな……この王子。
「押してダメなら引くのは恋愛の基本だ。よほど生理的に無理な男からのプロポーズ以外は嬉しいはずだ。きっとエレーナ嬢は今日眠る時もお前のことを考えるだろう。3日間通って急に来なくなったら驚くはずだ。そして不安になる。もしかしたらもう自分には興味がなくなったのではないかと。そこで自分の心の高鳴りを自覚する。そこが狙い目だ」
「ふぇぇ、スゴイ! 恋愛マイスター?」
「知らん。ブロンシェ、こんな感じで有効だと思うか?」
「はい、大丈夫です。明日からはちょっとずつ会話を増やすといいですよ」
「そうだな。相手のことを知らないのも不安を煽るものだ。適度に会話するように。おそらくフロスト王子かどうか疑われているだろうから文通していた話題でも喋れ。あと、明日はまず驚かせた謝罪だな」
「すごい! いけそうな気がする! もしかしてアッシュもそうやって彼女と婚約したの?」
いつの間にかアシュフォード様をアッシュ呼び。大丈夫なのかしら、この王子。王子というより庶民っぽい。
「私はお前みたいな失敗などしない」
「かっこいい! ドクターエック〇みたい!」
「前世ネタはよく分からん」
泣きながら現れたフロスト王子は薔薇を片付けてスキップしながら出て行った。薔薇を片付けてくれたのだけは良かった。本当に単純すぎて大丈夫なのかしら、あの王子。