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さて、酒場シーンはここで終了!
「そのエレーナ嬢だが、もうすぐこの国に公務で来るぞ。リゾート施設の視察なんかが目的だったな」
アシュフォード様、その公務投げてきたのはあなたですよ。
「……でもどうせ婚約者と一緒なんだろ……」
相変わらずフロスト王子はもぞもぞウジウジしている。「諦めるな、少年」とか言いたくなるよね。
「婚約者の王子は浮気しているからな。今回は留守番させた。面倒な王妃あたりと来るんじゃないか」
「えぇ! 浮気は最低だな! あんなに綺麗で優しいエレーナ嬢がいるのに浮気するなんて……あ、もしかして王子は男色?」
「違う。他のビッチに浮気している。お前も浮気くらいするんじゃないのか」
「俺なんて彼女いない歴=年齢なのに!? どうやって浮気なんてするの!?」
いや、その情報はいらないから。アシュフォード様もオレンジジュースを気に入ったらしい。おかわりしている。
「はぁぁ、リゾートかぁ……あれ、信じてもらえないだろうけど……アイディアは俺の前世の記憶からなんだよ……」
「プール付きリゾートは画期的だったからな。他にもレンタルドレスや土産ショップ、記念に似顔絵を描いてもらえるサービスなんかは珍しい。それが前世の記憶だというのは疑わない。なんだ、アイディアを盗られたのか」
「うん……まぁ元々俺のアイディアじゃないから盗られたって言うのは変だけど……認めてもらえるかと思ってペラペラ喋った俺も悪いし」
なるほど、この王子はボンボンのエドエド殿下とは違う。ちゃんと痛みが分かる王子だ。
よくよく観察すると、フロスト王子の瞳は濃い紫だ。資料では贅肉に埋もれてよく分からなかった。髪は薄いねずみ色で、体は細め。下手をすると女性に間違われそうな細さだ。他の兄弟たちから虐められているところも加味すると、男性版シンデレラってところ?
「この国についてはどう思ってるんだ? 私としては将来性がない国なんだが」
アシュフォード様、逃亡先いや亡命先として考えていたくらいだからしっかり調べていらっしゃる。それにしても他国をバッサリだ。
シンデレラに出てくる良い魔法使いでは絶対にない。
「はぁぁ……そりゃあもう、この国は終わりだよ。そのくらいは分かるって。利権と忖度ばっかりだし。税は年々上がったり、種類が増えたりしているし。王族と貴族は自分の贅沢にしか興味がないし」
「お前にこの国を良くしていきたいという思いはあるのか?」
「無理だよ。殺されるだけだもん。それに、良くしていきたいならこんなとこでポーカーしながらグチグチ言ってないよ」
「ふぅん、そうか。じゃあ一生このままでいいのか? アイディアも支給される金も全部他人に横取りされて、グチグチ言いながらポーカーするために生まれてきたのか? 前世の記憶まで持って」
「何のために生まれてきたかって……そんなの考えたことないよ」
アシュフォード様、煽りますねぇ。
「そうそう。スメール国だったか。あの国では『マヨネーズ』とやらが最近開発されていたぞ。きっと前世の記憶持ちの仕業だな。さらにいろいろな物も開発中だと聞く」
「え……」
「その者はお前とは大違いだな」
すみません、アシュフォード様。これ以上煽るとこの方、立ち直れなくなる可能性が……。
「まぁ私としても前世の記憶は面白い。別に自分で全部再現できなくても出来る者にやらせればいいだけだからな。王子という身分ならエレーナ嬢とも釣り合いがとれる。その気があるならうちの国に誘おうと思ったが、ずっとここで陰口を言いながらポーカーをしていたいなら仕方がない。ブロンシェ、帰ろう。邪魔したな」
「え……あの……」
フロスト王子は何か言いたそうにしていたが、アシュフォード様は私の手を引いてさっさと部屋を出た。
「良かったんですか? あんな感じで?」
ダイジェストで言っちゃうと、アシュフォード様の圧倒的有能さで王子をぶん殴ったようなものよね? あれ、なんか違うか。情報を引き出して煽りまくったのか。
「あそこまで言ってダメならもういいだろう。単なる浮気しないヘタレな王子なだけだ。ただ、これからどう動くかによって変わってくるんじゃないか?」
「見捨てているわけではないんですよね?」
「見捨てるほど知らないしな。ただ、予想よりも面白かった」
昼間はジリジリと暑かったが、夜は生ぬるい風が頬を撫でる。
「それにしてもあのオレンジジュースは捨てがたいな。あの男の農園が良いのか、この国のオレンジが良いのか……。他の店でもオレンジジュースを飲んでみるか」
フロスト王子がどうなるのかはまだ分からない。アシュフォード様とそっと手を繋いで怪しげな酒場を後にした。