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戻ってくるとフロスト王子は酔っ払いの中年おじさんのようになっていた。手にはオレンジジュースしか握られていないが酔ったのだろうか。
「へぇ、空を飛ぶ交通手段があるのか。あとはクルマだったか? 馬車よりも早く走るのか」
「うん……そうなんだけどさぁ……俺、前世の記憶があってもそんなのの作り方なんて分かんないし……マヨネーズも作れないしさぁ」
めんどくさい酔っ払いのようにフロスト王子はテーブルに突っ伏してグチグチ言っている。
「空を飛ぶのは鳥と同じ原理だろうか? 興味深いな。ただ、それだと兵器の開発も進むだろうな」
アシュフォード様はフロスト王子を綺麗に無視して考え事をしている。
「前世の記憶があるからチートだと思ったのに……勇者でも出来の良い悪役令嬢でもないなんて……俺ってなんて役立たずなんだ……」
アシュフォード様は相変わらず考え事をしながらも、フロスト王子の空になったコップにオレンジジュースを注いであげている。
ブランドン様も同じようにするだろうな。エドエド殿下なら……人を呼びつけてコップに注がせるんだろうなぁ。この場ならきっと私に注がせるんだろうけど。こういうところがアシュフォード様の凄いところなのかもしれない。
「まぁ役立たずかどうかは置いておこう。この酒場はどうやって建てたんだ? 金は横領されてたんだろう?」
「ぐす……ここはこんな立地だから安いんだよ。でも俺の金だけじゃ足りないからさ。さっきの奴らに出資してもらったり、工事できる友達の知り合いに頼んだり、あとは嫌がらせしてきた侍女達の部屋から盗んだものを売ったり」
あ~人脈があるんだ、いい話と思っていたら最後に犯罪をぶっこんできたよ、この王子。
「友達が多いのか」
「ぐすぐす……だって、城にいても食べ物手に入らないもん。食事は出ても腐ったのとか、嫌がらせで虫が入ってるのとか。城から抜け出して孤児院とか治療院、優しいおばさんの所で食べ物恵んでもらうんだ。城より市井の方が楽しいし」
「それで市井に友達ができたのか」
「うん。読み書きや計算を教えてご飯を恵んでもらって遊んでた」
だからこの王子、細いのか。筋肉はあんまりついていなさそう。ジゼル様なら全く見向きもしないだろう。
「そうか。で、エレーナ・ハベル嬢とも友達な訳か」
アシュフォード様、尋問慣れしてます? 話の流れの中に重要な話題をぶっこんできましたね。
「ええっと」
「覚えてないのか」
「いや、忘れるわけないよ! あんな綺麗な子!」
「そうか、文通を頻繁にするくらいだからな」
「小さい頃、城を抜け出す時に会ったんだ。こんな俺にも気さくに話してくれて、あんなに綺麗で……」
ぐすぐすグチグチ言っていったフロスト王子が今度は顔を赤くしてモジモジしている。私の頭の中にはこの言葉しか浮かんでいない。「ヘタレ」である。
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