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「美味しい」
「だろだろ! まぁ座りなよ」
渡されたオレンジジュースは酸味もなく美味しかった。
「こいつのとこで作ってるオレンジなんだよ」
「酸味がなくてとても飲みやすいです」
うちの国でとれるオレンジは酸味が強いから、絞ってもこうはならない。
「おー、お嬢ちゃん。やっぱいいとこの子だな」
「みなさん、オレンジを作っていらっしゃるんですか?」
「いやー、俺は商会に勤めてるよ」
「俺は騎士団」
他には肉屋さんやパン屋さんだ。ダフ侯爵並みにみなさん顔が怖いから、どうしても一般人には見えなかった。失礼なことを考えてごめんなさい。
「昨日嫁さんとケンカしたから気晴らしにな~」
「フロスト兄貴に誘ってもらうんだよ」
「今日はこのメンバーだけど、俺らも毎日来てるわけじゃないから入れ替わるよな」
「ここ、兄貴の店だからな」
王子が経営してる怪しい酒場ってあるんだ……。すごいな。というかみなさんフレンドリーだ。
「クッソ。また負けた!」
強面軍団と和気あいあいとしゃべっていると、フロストはテーブルに突っ伏している。
「え、兄貴また負けたの!」
「あの兄ちゃん、強すぎないか? どう見ても育ちの良い坊ちゃんだろ?」
「もう1回だ!」
「オレンジジュースもう一杯いただけますか? 美味しいので」
「嬢ちゃん。ちょっと馴染み過ぎじゃね?」
「物怖じしない子だな。ほいジュース」
「おかしいだろ! なんで毎回そんなに引きが強いんだよ! イカサマか?」
アシュフォード様は何回かポーカーをして、私はその間に三杯ジュースを頂いた。お腹たぷたぷ。
「簡単だ。カードの順番を全て暗記しているからな」
「何なのそれ! チート!?」
「チートとは何だ」
アシュフォード様の方も盛り上がっている。私は強面軍団の方々と月々のお小遣いのお話をしていたところだ。みんな奥さんから貰ったお小遣い程度しか賭けていないらしい。
「いやー、兄ちゃん。カッコイイ上に強いな」
「カードの順番記憶した上にしっかり戦略が練れるのは凄い」
「いいもん見たわ~」
「兄貴、完全に負けたな~」
「これ賭けてたらヤバかったな」
強面軍団はひとしきりキャッキャした後「嫁さんに怒られる!」と帰宅していった。私はオレンジを作っている強面さんの住所をしっかり聞き出しておいた。
さて、部屋に残されたのはフロスト王子?とアシュフォード様と私だ。
「フロスト王子は白豚なのかと思っていたが、違ったのか。ここまで違うと影武者というわけもないだろう」
「あー、あの絵ね。俺、他の王子や王女にいじめられてるからさ。絵師が買収されてあんなひどい絵にされちゃうんだ。小さい頃は毒を盛られた後遺症で太ってた時期もあるからあながち間違いでもないんだけど」
それにしてもこの王子、警戒心なくフレンドリーだ。大丈夫なんだろうか、この国。
「王子がこの酒場を経営されているんですか?」
「そうそう。王子として支給されるお金もわりと横取りされちゃうからさ」
さらっと言う内容がエグイですね。
「それにしても立地の割に健全な酒場だ。もっと派手に賭け事をやっているのかと思っていた」
「派手にやったら目をつけられちゃうじゃん。ここでお酒をちびちび飲んでグチグチ言いながらトランプやってるのが一番いいんだよ。ちょっとスパイごっこ要素も入れてさ。『お前がルパ〇か』みたいな」
「隠居した老人みたいな言い草だな。ルパ〇って何だ。こちらの言語は勉強してきたがチートやルパ〇といったスラングはまだまだ分からないな」
アシュフォード様、王子相手に猫被らないんですね。
「あ、スラングじゃないんだ。俺、実は前世の記憶があるんだ」
「すみません。そのお話、長くなりますか? ちょっとお花摘みに」
「ひどっ! 今、俺かなり重要な事言ったのに!」
オレンジジュース飲み過ぎちゃったもの。