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「領地にでも行くのかしら?」
からかった余韻で顔が若干赤いジゼル様が素早くアシュフォード様に突っ込む。
「いや、オルグランデ王国に行く」
「まぁ、あの白豚王子がいらっしゃる国じゃないの」
「それを確かめに行くんだ。仕事を休めて丁度いい。婚前旅行のようなものだな」
「こ、こ、こ!」
ジゼル様は顔をさらに赤くしてニワトリのような声を上げながら、アワアワしている。
「ブランドンも連れて行こうかと思ったが……」
「ダメよ!」
ニワトリの真似はやめたらしい。
「この買い物に時間がかかりそうな女も付いてきそうだから諦めることにする。絶対に煩いからな」
「ブランドンが行くなら私も行くわよ! 婚約して初めての長期休暇に一人置いて行かれるなんて寂しいじゃないの! そんなことしたら寂しくて私、ネコちゃんを飼っちゃうんだから」
「寂しいからという理由でネコちゃんを飼おうとするな。使用人に世話を丸投げなんて無責任だ」
アシュフォード様はド正論を返す。というかネコちゃんって呼び方は継続なんですね。ジゼル様は正論に反論できず、黙ってしまった。
「オルグランデ王国は長期休暇の時期は暑そうですね」
一つ国を挟んで存在するオルグランデ王国。長期休暇の時期はちょうど雨季が終わる頃で暑い時期なのだ。
「あぁ、商会に風通しの良い服を用意するよう連絡しておく。幸い、長期休暇までまだ時間があるから間に合うだろう」
「婿候補の王子殿下を見に行くんですか?」
白豚とか育ちの良い牛とか言われてしまっている、フロスト・オルグランデ王子。
「それもあるが、あくまでオマケだ。ブロンシェとは領地にしか旅行したことがないからいい機会だと思った。他国にいれば仕事を休めて丁度いい。最近はこの部屋も人が増えてきたし、久しぶりに二人でゆっくりできるな」
仕事を休めるというところでニヤッと笑うアシュフォード様。
エドエド殿下のお仕事が進まずに他の方々から泣きつかれないのはいいですよね。仕事で無茶ぶりをされないのもいいです。ただ、その前に甘い顔をしながら私の髪をいじるのはやめていただきたいのですが。
あら、ジゼル様がいつの間にか窓の外を見ています。外には逢瀬中のエドエド殿下とキャミラさんしかいないと思うのですが……。あのお二人は毎日しばらくイチャついた後にエドエド殿下だけ走って帰っていきます。王宮の馬車のお迎えの時間なんでしょうね。
アシュフォード様は髪をいじるのをやめて頬っぺたを触り始めております。ジゼル様に「破廉恥」と言われる前にやめて欲しいんですけど……。それとも私、太ったのでしょうか?
あ、ジゼル様がゆっくり植木鉢を持ち上げました。筋トレでしょうか。まさか、お二人の上に落とすわけではないですよね。お二人がいるのは地上、ここは三階ですから……さすがに殺す気ではないですよね?
「おい、さすがに殺人までは庇えないぞ」
「殺人じゃなかったら庇えるんですか?」
「なんとか隠蔽できる」
「ブランドンはお父様に稽古つけてもらいながら領地の勉強してるのに、あんなにお気楽でイチャイチャしてる二人を見ていると腹が立つのよ」
それは見事な八つ当たりでございますね。というか、ジゼル様ってわりと乙女。婚約したらイチャつきたいってことですもんね。
「水をかけるくらいにしておけ。ほら」
アシュフォード様は懐から何かを取り出す。
「これは?」
「うちに出入りする商人がオルグランデ王国から仕入れた水鉄砲という玩具だ。上から水を入れて蓋をして、ここを押すと水が飛び出る。あの国は暑いからこういった物が流行るんだ」
「あら、面白いわね! 早速試すわ」
その後「なんだ、雨が降り出したのか?」とか「頭になにか落ちてきた! 鳥のフンだ!」とか騒ぐ王子の声が聞こえた。ジゼル様は八つ当たりできて大変満足して高笑いしていた。