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※注意※
アシュフォードは貝類が嫌いな設定ですが、わりと偏った(万人受けはしない)理由で嫌っております。それが今回出てくるので、貝類が大好きでアシュフォードの考え方が受け入れられない!という方々はお戻り頂いた方が良いかと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
「あの尻軽に浮気している殿下はまた寮生活に戻ったの?」
ジゼル様、明け透けな物言いでございますね。
「いえ、さすがに強制的に王宮に戻されたみたいです」
学園には寮があり、王都に屋敷を持たない・通学に時間がかかる・勉強に集中したい生徒などは寮に入れる。ほとんどの高位貴族は王都の屋敷から通うが、王族は見聞を広めるために最低1年は寮生活を送るのだ。エドエド殿下は女性関係で見聞を広めたようだけれども。
「やっぱりそうよね~」
エレーナ様はここ数日、勉強部屋に現れない。学園には来ているようだけれど。心配だが、たまには一人になりたい時もあるよね。ジゼル様と二人で喋っていてもお菓子の量が全く減らないのが少し寂しい。ブランドン様は本日、騎士団の面々に稽古をつけてもらえるとのことで不在だ。
「あなたとあの腹黒って二人きりのときはどんな会話してるの?」
うーん、腹黒という言葉だけではアシュフォード様はいささか表現しきれませんよね。やっぱり一言なら魔王様?
「ジゼル様。ブランドン様とうまくいってないからそんなことを聞くんですか?」
「ち、違うわよ! ただの興味本位よ!」
「ふぅ~ん」
以前はそんなこと気にもしなかった方なので、思わずジト目で見てしまった。
「何よ、その目は!」
「いやぁ、ジゼル様は婚約してから変わられたなぁと思いまして」
「ブランドンがお父様とばっかりしゃべっていて、何を話したらいいか分からないだけよ」
「ほぉほぉ」
つまり、寂しいってこと?
「私たちはジゼル様のように今週婚約しました☆ってわけではないので、初々しい会話はしてないですよ。仕事関連のこととか、最近はエドエド殿下関連の愚痴多めですし。ジゼル様たちはお互いのことをたくさん話して知っていけばいいじゃないですか~。デートもしたらいいですし」
デートという単語でジゼル様は真っ赤になる。最近、ツンとデレの間隔が短い。
「で、で、デートって例えば?」
「う~ん、私達のデートは参考にならないと思いますよ? ハウザー公爵からチケットを譲って頂いて人気の歌劇を観に行ったらアシュフォード様は『刺されたのに何であんなに歌い続けられるんだ。出血多量で死ぬだろ』という感想でした。ブランドン様は暗くなったらすぐ寝そうですね」
あの歌劇では、痴情のもつれで女性が男性に刺されちゃうんですよね。刺されてから十分間くらいは朗々と歌われてましたね。
「うわぁ、言いそう。ブランドンは確かにすぐ寝るかも」
「あとは良かれと思ってうちの父が魚介類の美味しいレストランを予約して行ってみたら、アシュフォード様は貝類がダメなようで。『貝は糞も尿もあの貝殻の中でするんだぞ。貝を食べているということは糞も尿もさらに貝の内臓まで食べることになるんだ』とのことでした。ブランドン様の場合、あまり好き嫌いはないと思います」
「貝は美味しいじゃない! 何イカれた考え方してるのよ。そんなこと言ってたら何も食べられないわ。あなた、よくそんなのと付き合ってられるわね」
「う~ん、私は自分の好みを押し付ける気がないだけですかね? 歌劇については同意できますし。貝類は確かにそういう想像をしたら食べたくなくなると思うので嫌いなのも分かるなぁと。ハウザー公爵もあまり貝類はお好きでないので、食の好みは親の影響が大きいかもしれませんね。もしかしたらハウザー公爵がそういうお考えなのかも?」
「確かに。親が嫌いな食材は食卓に上らないものね」
「食べ物って難しいですよね。美味しいものは食べたいですし、好きなんですけど。牛をしっかり育てて下さっていますが、牛乳だって子牛が飲むはずのお乳を人間が奪って飲んでると言われたらそれまでです。野菜だって農家さんが一生懸命育てて下さってますが、野菜は人間に食べられるために花を咲かせて成長するわけでもありません。魚だって漁師さんが獲ってきて下さいますが、人間に食べられるために泳いでいるわけではないのです。だからと言って明日から肉・魚・野菜・お菓子食べませんなんてできませんからね。しっかり感謝して頂きますね」
「……あなたもしっかりイカれてたわね。もしかして洗脳でもされているのかしら? ハウザー公爵家の洗脳術?」
ジゼル様の返事は小さくてよく聞こえなかった。
「え? 何ですか? まぁ、それはおいといて。あれからブランドン様の筋肉見たんですか? 報告してくださいよ」
「裸なんて見れるわけないでしょ! 変態よ!」
破廉恥から変態になりました。別に裸にならなくても腕とか見えるじゃないですか、ねぇ?
「見たらいいじゃないですか。婚約者なんですし。『見せて』って言ったら見せてくれますよ、きっと。そこから会話しましょう。『どんなトレーニングしてるの?』とか『騎士団の訓練見学に行ってもいい?』とか。そこからデートに発展させればいいんですよ。私達は公爵邸でグダグダしていることが多いです」
お腹や頬や髪をよく触られます。あとは膝枕。でもこんなこと言ったらジゼル様鼻血出しちゃうだろうなぁ。婚約者の道は険しい。
「そんなことできるわけないじゃない!」
「じゃあ護身術教えてって言って、密着して触ったらいいじゃないですか。触り放題☆」
「ひぃぃ……」
「ジゼル様、何を想像してるんですか。顔赤いですよ、きゃ。やらし~」
「あなたね! 人が真剣に悩んでるのに!」
悩める乙女をからかいまくっていたらアシュフォード様がやってきた。
「ブロンシェ、長期休暇は旅行をしないか。予定はどうだ?」
旅行とはお初ですね。