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「エドワード、私にドレスをプレゼントしてくれるって言ったわよね。それはエレーナ様のなの?」
静かになったと思っていたカミラ嬢が場の空気を読まず、甘えた声を出します。
「カミラ、少し静かにしてくれ。アシュフォードと話がある」
「でも、ミリアンっていうデザイナーに採寸してもらったのは私なのに。もしかしてエレーナ様もミリアンのドレスを着るの? 私のためだけって言ったのに」
「カミラ、後で話をしよう」
ミリアンさんというのは、いま王都で人気急上昇中のデザイナーです。
今からドレスを頼んでも半年待ちだと聞きます。そのような方を呼び捨てするのはいかがなものか。
カミラ嬢の空気を読まない発言によりギャラリーのみなさんの雰囲気が冷たくなってきました。特にご令嬢たちの目つきが怖いです。ドレスの恨みは怖い。
「そうだ。殿下。忘れないうちにこちらもお渡ししておきます」
カミラ嬢を必死で黙らせようとしている殿下に対して、アシュフォード様はさらに何かを突き付けます。今度は書類ではなく封筒です。手紙でしょうか。
「……まだ何かあるのか?」
エドワード殿下は顔を歪めながら封筒をまるで汚いものでも触るように受け取ります。
「内容からしてお一人の時に読まれた方がよろしいかと」
「お前は中身を知っているのか」
殿下はさらに苦虫を噛み潰したような表情で、アシュフォード様の言葉を聞かず封を切りました。
殿下は気付いていませんが、アシュフォード様の口角が少し上がっています。
殿下は手紙を読むとこれまでの表情を打ち消し、喚くカミラ嬢を連れて足早にどこかへ行ってしまわれました。
ギャラリーの皆様もしばらく封筒の中身についてヒソヒソ噂をしていましたが、エレーナ様がご友人たちと共に踵を返したのを皮切りに段々と人が減っていきました。
親しい者しか分からないと思いますが、エレーナ様の足取りがいつもより軽いです。もちろん、令嬢としてスキップするなんてことはありませんが、あれは心の中では盛大にスキップしていらっしゃるはずです。
「馬鹿のためにすっかり時間をくってしまった。ブロンシェ、今日はこのまま屋敷に帰ろう」
アシュフォード様が端正な顔に若干の疲労を滲ませながら、私を馬車までエスコートします。
「あの封筒の中身は何だったのですか?」
「王妃様からの手紙だ。殿下の成績が落ちている上に、週末は王宮に帰らず公務もしないからな」
「まあ……アシュフォード様は王妃様からの覚えもめでたいのですね」
成績は生徒全員分、貼り出されるので知っていましたが、王宮に帰っていないことまでは知りませんでした。
週末も寮にいらっしゃるのでしょうか?
「あら? なぜアシュフォード様の馬車に乗るのですか?」
ぼんやり考え事をしていたら、いつの間にやら馬車に乗り、隣と言うには密着しすぎた距離にアシュフォード様が腰掛けるところでした。
アシュフォード様は私の言葉には答えず、ふっと笑うと窓から使用人に合図をします。
イケメンは笑みだけで人を黙らせました……
ガラガラと馬車が動き出し、うちの馬車も後を追うように出発しました。
「はあ、馬鹿共の相手は疲れる」
アシュフォード様は座席に深く腰掛ける。
片手を私の腰に回し、もう片手は膝裏に差し込むとあれよあれよという間に私はアシュフォード様の膝の上に座らされた。
「あの……この格好は一体……?」
「あれだけ働いたんだから癒しが欲しい」
はあーと大きく息を吐きながらアシュフォード様は私の肩あたりに顔を引っ付ける。
働いたというよりも殿下に書類と手紙と毒舌をお見舞いしましたわね。
書類は財務大臣の仕事ですが、王宮に帰っていないなら仕方ないですね。あの様子なら手紙を送っても読んでいないか、無視なのでしょう。
王妃様からの手紙も同様ですが、自分の息子の制御くらいアシュフォード様に頼らずやって欲しいです。
「もう少し、そばにいてくれても良いだろう? ブロンシェといると落ち着くな……」
そんな甘い声で言われると照れ臭いです。
アシュフォード様の片手は私の腰をしっかり支えていますが、もう片手は先ほどから私の頬をつついたり、髪をくるくるといじっています。
この状況で私の心臓がお屋敷まで持つのか心配になってきました。