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「でもさ~、アッシュならあの男爵令嬢、簡単に暗殺できるよね? なんでやらないの?」
エレーナ様が過度のイチャつきに耐え切れず帰宅してしまった後のお部屋で。
昨日に引き続き場所によってはばっちり見える密会をスタートしたエドエド殿下とカミラさんを眺めながら、ブランドン様はなんてことないように口にした。
「アホか。そんなことしたらまずエレーナ嬢が疑われて、次に私達が疑われるだろう。証拠がなくとも変なウワサを流されて領民にでも広まったら、ウワサを消す方が面倒だ。民心が離れたら困る」
うん、暗殺できることは否定しないんですね。
「それに駆除したら次が湧いてくるかもしれないから、頭がスカスカな女だと都合がいい。変に悪知恵が働く身分の高い女が出てきたら困る」
「そっかぁ。アッシュは頭いいもんなぁ。行動読めちゃうもんね」
相変わらずのこき下ろしっぷり。
ブランドン様は皮肉が分かっているのかいないのか、私が用意した紅茶を嬉しそうにジゼル様とアシュフォード様に運んでくれている。犬の尻尾が見えるのは私だけではないはず。あと、ブランドン様の会話内容が最近少し知的になってきた気がする。
「結局、この王子殿下はどんな方なのかしら。情報が他と比べて少ないわね」
ジゼル様は婿最有力候補の資料を覗き込んでいる。
「1つ国を挟んでいるから調査に時間がかかる」
「もし虐げられている方ならこの国に婿入りしやすいのではないですか?」
「あぁ、そう思って候補に入れてある。エレーナ嬢と面識があることもプラスの要素だな」
「変に国内の有力貴族と婚約したら継承権争いが勃発しますものね」
「ボッパツ? なにそれ? どんな髪型?」
真面目なお話にブランドン様の間の抜けた声が入る。
ジゼル様が勃発の意味を説明し始めたところで、ドアがノックされた。
エレーナ様は帰ってしまわれたし、そもそも彼女にはこの部屋の鍵を渡してあるのでいつもノックはしない。全員で顔を見合わせて頷き合い、私がドアまで近づいた。ブランドン様が重そうな辞書を片手に後ろから付いてくる。
その辞書ってもしかして護身用? 勉強用じゃなくて?
「どなたでしょうか?」
ドアの前には人の気配がする。鍵がかかっているドアを開けずに私は聞いた。
「あの……ハウザー様に聞いていただきたいことがあります。こちらにいつもいらっしゃると聞いて」
幼さの残る男子生徒らしき声だ。聞き覚えはない。
チラリとアシュフォード様を見ると、書類を見えないようにまとめながら面倒くさそうに「中には絶対に入れるな」と小声で言われた。ジゼル様と言えばドアのところまでやってきて「なんだか事件が起きそうな予感がするわ。いつでもドアを閉めて追い出せるようにしとくわね!」とドアに手を添えてノリノリでスタンバイしている始末。
「では、まずご用件だけ伺います」
ブランドン様が守るように前に出てドアを開けた。
制服の袖口の色からして、私たちの1つ下の学年の男子生徒が女子生徒の肩を抱いて立っていた。女子生徒は教科書を1冊握りしめている。
うわぁ、なんか面倒くさそう。アシュフォード様の勘はおそらく当たっている。