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いつもお読みいただきありがとうございます!
今回はちょっと真面目回です。次話からはまたコメディ。
25話のいいねの伸び率がすごい……。ジゼルって結構人気?いや筋肉談義が人気?
「あれ、エレーナ様。今日は早いですね」
授業が終わり一番乗りかと思っていつもの勉強部屋に入ると、ぼんやりとしたエレーナ様がすでにいた。エレーナ様の前には変態貴族全集……じゃなくて婿候補の資料がある。
昨日ジゼル様をからかいまくってピュアな気持ちをやっと取り戻したので、さすがに新しい変態さんの趣味を見るのは辛い。またジゼル様のピュアさを頂かないと。
「今日ね。初めて体調不良でもないのに授業をさぼったのよ」
「あ、そうなんですね! 紅茶飲みます?」
「……ふふ、あなたってそういう人よね。優しいわね。頂くわ」
「?? 今日はドライフルーツを持ってきたので小さく切って紅茶に浮かべましょう!
美味しいんですよ!」
エレーナ様はいつもに比べてなんだか暗い。お菓子が手が届く範囲にあるのに昨日から減っていないようだ。もしかして……ダイエット? ダイエットしてるから暗いのかしら?
疑問に思いつつ紅茶を淹れてドライフルーツを浮かべる。このドライフルーツのちょっとした酸味がアクセントになるのよね。
「さ、どうぞ! 何かあったんですか? また新しい変態さんでもいましたか?」
「資料は見ていただけであんまり頭に入ってないのよ。私、なんだか嫌になっちゃったの」
「そうですよね。さすがにこれ、男性しか愛せないからお飾りの妻希望っていうのは酷いですよね。愛人がいるよりましだからってこれは酷いです」
「あぁ、そうじゃないのよ。自分で自分が嫌になったの」
エレーナ様は珍しくため息を吐く。エドエド殿下の所業がどれだけ悪かろうと、エレーナ様のため息は聞いたことがなかった。
「昨日アッシーが私にちゃんと行動しろって言ったでしょう? でも、私何をしたらいいのか分からなくって。今までずっと言われたことをこなしてきただけだから、いざ行動しようと思ったら今以上のことは何もできなかったの。愚痴愚痴言っていただけで何も動けないなんて情けないわ」
エレーナ様の独白を聞いて頷きながらそっと棚からお菓子を取り出す。しかし、エレーナ様は手を伸ばさない。お菓子に手を出さないとはヤバい。本気で悩んでいらっしゃる。エレーナ様の体調はお菓子の量で推測する、これ鉄則。
「言われたことを相手の期待以上にこなしていれば褒められたもの。大切にされて尊重されて愛してもらえているって思えたもの。認められていると思えたから勉強だってマナーだって求められるままに頑張ってきたのに。でも結局エドエドが夢中になってるのは、学もマナーもない、私の足元にも及ばない、いえむしろ平民にさえ劣る男爵令嬢なのよ。お父様にエドエドの浮気のことを言っても『火遊びだ。一時の気の迷いだ』って笑ってまともに取り合ってくれないし。陛下や王妃だって『珍獣に気が向いているだけだから長い目で見てあげて』なんて言うのよ」
両陛下、一応は年頃のご令嬢に対して珍獣とはなかなかの表現ですね。というか珍獣に対して失礼では?
「バカにしてますよね」
「そうなのよ。結局、私ってどんなに努力しても大して愛されてなかったのよ。私がどんなに頑張っていたかなんて、どのくらい傷ついているかなんて親達はどうでもいいんだわ。エドエドだって学やマナーのない子を選んで尊重してるんだし。だから、これまで努力してきたのがバカみたいって思ったの」
私は首がもげそうになるほど頷きたいのを堪えて、ゆっくり頷く。そりゃあそうだ。いくら珍獣と言えども、あんなご令嬢に夢中になられては「これまでの教育なんだったの!? むしろこれまでの教育は嫌がらせでは?」と考えてしまう状態だ。
「そして止めはコレよ」
エレーナ様は落ち込んでいた様子から一転。少し怒りを滲ませて変態貴族全集じゃなかった……婿資料を指差す。
さっき私が読み上げた男性しか愛せない貴族ではなく、そこには他国の王子の資料が載っていた。
「この王子殿下がどうかされたんですか?」
「おっつかれ~!」
私の疑問と部屋に入ってきたブランドン様の元気な声が被った。