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ちょっと長めです。
ブランドン様による「婿として誰が一番マシか当てっこゲーム」が始まったので、私はジゼル様を探しに行った。
さすがにね、ブランドン様が「ん?」と思った人物たちがことごとくヤバイ人達だったのには引いてしまった。人形が大好きで家では必ずパートナーの様に人形と行動を共にする侯爵令息とか、SMプレイが趣味でハイヒールで踏まれるのが好きなどこぞの王子とか。
私が聞くにはハードルの高いお話でした。
ジゼル様は、いつも私たちが勉強やお喋りをしている部屋からそう遠くない場所で蹲っていた。
「はい、確保~」
ジゼル様の背中に抱き着く。
「ちょっと! 私は犯罪者じゃないわよ!」
「一回言ってみたくないですか? 騎士みたいに『確保!』って。それに忘れ物はどうされたんですか?」
「わ、忘れ物は気のせいだったみたいよ」
ジゼル様は高位貴族のわりに取り繕うのがへたくそなお方である。
「今日のジゼル様は様子がおかしいですが、ブランドン様と何かありましたか?」
ジゼル様の様子がおかしいのに付け込んで、確保した後に空き教室に誘導する。これ私じゃなくて他の令息だったら大問題なのだけれど、ジゼル様の危機管理は大丈夫よね?
ジゼル様はしばらく一人で唸ったり、百面相したりしていたが、私がハンドマッサージを始めるとポツポツ話し始めた。
ハンドマッサージってアシュフォード様にしかしたことなかったけど、女性にも有効かも。
「ブランドンは朝私を迎えに来たのよ」
「おお、お迎えですかぁ」
変に茶々を入れると喋ってくれなくなりそうなので、同じ内容を繰り返すだけに留める。
「かなり早く来たのよ。しかも走って侯爵邸まで来たの」
「徒歩ですか……」
「そうよ、信じられないわよね。走ってくるのに丁度いい距離だそうよ。それならいいんだけど、私起きたばっかりなのよ! 寝起き姿見せられるわけないでしょ!」
「そーですね」
寝起き姿を見せられないとか完全に乙女である。
「そうしたらお父様が嬉しそうに稽古しようって言いだして。二人で朝から稽古よ」
「まぁ、ダフ侯爵様も朝早いのですね」
私は微妙な太鼓持ちに徹する。今から勉強部屋に戻って変態貴族達の資料を見るか、乙女の惚気を聞くかを選ぶなら私は乙女の惚気を選ぶ。
「お父様は騎士団の朝練の時の癖がなかなか抜けないみたいなの。だから夜会がない限りは早寝早起きよ。うっ、そこ気持ちいいわ」
「ここが凝ってますね~」
ハンドマッサージはジゼル様のお気に召しているようである。昨日はアシュフォード様にハンドマッサージを施しながら、私はほっぺたとか腰とかいろいろ触られてたんだけど。
「稽古は別にいいのよ。問題はその後よ。身支度を整えて行ってみたら、ブランドンが……ぬ、ぬ……いえ、その……」
「ぬ?」
「ぬ、ぬ……脱いでたのよ!」
「ほほぅ」
稽古して汗をかいて服を脱いでいたわけですね。それを思い出してジゼル様は挙動不審なわけですね。
「ほほぅじゃないわよ!」
「見たんですね?」
「見てないわ!」
「見たんですよね?」
「見てないわよ!」
筋肉が目の前にあるのに見てないとかガーディアンクラブの会員の名前が泣きますよ。
「何個に割れてました? 腹筋は」
腹筋が何個に割れてるかって個人差あるって聞いたのよね。エリカから。
「ろく……って何を言わせてるのよ!」
「しっかり見てるじゃないですか」
「っつ……」
ジゼル様のお顔はまぁ真っ赤である。その顔見せてたら婚約者はすぐ決まっていただろうなぁ。
「で、どうでした。ブランドン様のお体は」
「あなた、破廉恥よ!」
「フェチってあるじゃないですか。鎖骨とか手首とかうなじとか肩甲骨とか。どの辺が良かったですか?」
ちなみにアシュフォード様の腹筋は割れてません。頭の回転も速くて毒舌で顔も良くて腹筋まで割れてたら完璧すぎて人間味ないですよね。
「鎖骨のラインは良かったわ……」
「ほほぉ。そしてそれで? 鎖骨だけでしたか?」
「……背中もセクシーで良かったわ……」
「ほほぉ。腹筋は?」
「……六個に割れてたわ」
「ふむふむ」
微妙に強弱をつけながらハンドマッサージを続ける。
「ブランドン様の体を思い出して妄想してたから挙動不審なんですか?」
「ち、ち、違うわよ!」
「いやぁ、良い体を見たら妄想してもいいと思いますよ~」
「恥ずかしくって顔見れないだけよ!」
「きゃ。乙女~」
昨日、アシュフォード様に触りまくられて溜まったストレスをジゼル様で発散している気分だ。
だってねぇ、乙女のお腹に無断で触るとか「太ってる」って言われてるみたいでお腹引っ込めようとするじゃないですか。いくら「可愛い」と言われてお腹を触られてもこの複雑な乙女心。
「春ですねぇ」
私はニヤニヤしながらジゼル様の真っ赤な顔を堪能した。平和である。勉強部屋に帰ったらエレーナ様によってお菓子が完全になくなっている気がするが、平和である。
私はこの時だけは変態貴族達やエドエド殿下のことを頭の片隅からも追いやった。