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いつもお読みいただきありがとうございます!
エレーナが出てくると長くなる……笑
「で、どうだったの? ダフ侯爵家は」
目の前には巨大パフェとエレーナ様。ここはカフェの個室だ。
「私は王妃様に呼ばれて行けなかったけど。さぞ楽しかったわよね?」
おおぅ、見えない圧力をかけられている。
今朝、シャイス伯爵邸に急に来訪したエレーナ様にカフェまで有無を言わさず拉致されたのだ。昨日のダフ侯爵邸での出来事がよほど知りたいらしい。
「結論から言うと、ジゼル様の婚約者はブランドン様になりました」
「はしょりすぎでしょ!」
「え? 一番重要なことじゃないですか? あ、ブランドン様のお家では昨日のうちに玉の輿踊りが開発されたらしいんですけど、私はまだ見てないので踊れません」
伯爵家の次男が侯爵家に婿入り。玉の輿である。家族で玉の輿踊りを踊ったそうだ。玉の輿踊りは気になる。エレーナ様ももし王家に嫁いだら玉の輿になるから、踊ったらいいのに。あればですけど。あ、私もアシュフォード様と婚約しているから踊らないと。
「いや、そんなことは聞いてないから! どこをどうやったら婚約者になったのよ! そこんとこ詳しく!」
「ええっとですねぇ」
***
「可愛いと思います!」
ダフ侯爵夫人にジゼル様をどう思うかと問われたブランドン様は素で答えた。
私はそもそもここで何と答えるのが正解なのかよく分からないでいた。侯爵家の跡取りとしては正直な方ですね、なんて言えないし。そう考えると、ブランドン様の返事ってある意味正解?
そんなことを考えていると、侯爵夫人はなんだかイイ笑顔を浮かべて「旦那様を呼んでくるわ」なんて部屋から出て行ってしまったのである。
「第一関門にして最大の難関をクリアしたな」
アシュフォード様は詰めていたらしい息を吐く。ジゼル様は可愛いと言われて顔を真っ赤にしていた。いつものツンは珍しく不在だ。
***
「こんな感じでした!」
「確かにダフ侯爵夫人に気に入られたなら婚約者もあり得るわね……。いや、全然分からないから! なんで侯爵呼びに行ってくるっていうのが婚約者内定になるのよ!」
「いや、結論から言うと省略しすぎだと言われたので。今回は焦らしてみました」
「焦らしすぎよ!」
エレーナ様はツッコミを入れながらパフェを結構な勢いで食べている。見ているこちらが胸やけしそうだ。
「ダフ侯爵はどうだったのよ。あの人、すごく怖いじゃない」
確かにダフ侯爵はめっちゃ怖かった。
***
緊張が解けたのはほんの少しだけだった。
入口からただならぬ気配がして顔を上げると、そこには逞しい眼帯姿の男性が立っていた。
あれ? ジゼル様の推しもエリカの推しも眼帯だったよね? 二人の推しはそれぞれ違うけれどケガで眼帯姿なのは共通なのだ。それに侯爵は怪我をするまで騎士団にいらっしゃったというお話よね。もしかしてファザコンってそういうこと?
夫人をエスコートして入ってきたダフ侯爵を見て何となく、そう思いだした。
にしても不機嫌なのか元々厳しめに見えるお顔立ちなのか、ガタイも良くていらっしゃるので裏社会のボスと言われた方が納得だ。
「ハウザーの倅とその婚約者か。ハウザーの倅は相変わらず頭でっかちでひ弱そうなことだ。頭に全部栄養がいってるのではないか。そしてこのちっこいのがゴメスのお気に入りか?」
うん。声も怖いし、明らかに歓迎してないムードも怖い。夫人との落差が怖い。
ていうか、このネチネチ具合。ジゼル様じゃないか! 血は争えない。
「お会いできて光栄です! ブランドン・ミュラーです!」
ブランドン様はハキハキ元気に挨拶する。
「ゴメスは私が騎士団にいた時の後輩だ。なんでこんなちっこいのを気に入っているのか……。おい、ちっこいの。稽古だ。庭へ出ろ」
おう……これが噂の「表出ろや」ってやつですね……。
「お父様!」
「まぁまぁジゼル。お父様は男同士の大事なお話合いがあるのよ。口を出してはいけないわ」
「ゴメス隊長の先輩なんですね! うわぁ、楽しみ!!」
ブランドン様は嬉々として侯爵にひっついて出て行く。素である。猫被るとか虎の皮被るなんて単語もいらないほど、悲しいほど普段通りであった。
***
「稽古して気に入られたみたいですね」
だって稽古中、侯爵は「ほぉ」とか「これは面白い」とか「なるほど、だからゴメスが……」なんて小説の魔王みたいなセリフをずっと喋っていたのだ。最終的には「お前は騎士団長を目指せる!」とかって熱くなっていた。
ジゼル様とダフ侯爵夫人は目を輝かせて稽古を見学していた。絶対チラ見できる筋肉目当てだな。ジゼル様はブランドン様の腹筋を稽古が終わってからもチラチラ見ていた。
「まぁ……うん。なんかその辺りは聞かなくても納得だわ。木剣と木剣を交えて通じ合ったのよね。ダフ侯爵はケガする前までは騎士団長を目指していたそうだもの。最近は公爵家と侯爵家からしか騎士団長が出ていないし。でもブランドンが頭良くないのはさすがに感づかれたでしょう? 大丈夫なの?」
「まだ若いし、時間も体力もあるから調教すれば大丈夫だろうという話になってました」
「あの一家は調教が好きなの?」
「ブランドン様が素直なのが良いそうです。変に狡賢い人と婚約して、その人や親類に侯爵家を引っ掻き回されるより良いそうです」
「なるほど。それはそうね。そっかー、ジゼルもとうとう婚約かぁ。エドエドの押し付け先が一つ消えちゃったわね」
「消えるも何も……あの侯爵ならエドエド殿下の婿入りなんてさせないでしょう。ケガで騎士団を退団したにも関わらず稽古は欠かしておられなかった様です」
「はぁ……早くエドエドはキャミラちゃんと一線超えてくれないかしら。そうしたらすぐ押し付けるのに」
エレーナ様の口にパフェの最後の一口が消える。と同時にメニューを見ているのはすごい。
あと放たれたセリフもすごい。