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勝負のテスト明け。
なんとエドエド殿下の軟禁が明けるのは一週間遅くなることになった。エドエド殿下が体調を崩しているので、念のため一週間様子を見てお休みするんだそうだ。
今日からまたあの日々が始まる!と気合を入れていたのに拍子抜けしてしまった。
「公務と勉強のし過ぎで知恵熱でも出したか。いや、知恵がついているならあんな女と一緒にいるわけがない。だが、一週間猶予ができたのはいいことだ。今のうちにダフ侯爵を落とそう」
アシュフォード様はスーパー不敬な発言をしている。
「え、どうやって落とすのですか? というか、なぜ落とすのですか?」
「ジゼル嬢には婚約者がいないからな。ブランドンを推しておこう」
「なるほど?」
よく分からないので語尾を疑問形にする。
疑問に思っている間に私の手の中のサンドイッチはアシュフォード様の口の中に消えた。
た、食べかけだったのに……。これって間接キスになるのでは……。
「ジゼル嬢が侯爵家を継ぐだろう? それに侯爵家に縁があれば騎士団長は無理でもブランドンがそれに近い地位に就くのに有利になる」
騎士団はやはり爵位がモノを言う。もちろん実力もないと駄目だけど。
というかアシュフォード様、なぜまたねだるように口を開けておられるんですか。私はサンドイッチと一緒に持ってきたナッツをアシュフォード様の口に放り込む。
「でもダフ侯爵は……その……」
「頭が固い堅物強面ジジイだ」
ガリガリとナッツを食べる音が聞こえる。
「そこまで言わなくても」
私もそこまで言わなかったのに……。思っただけで。
「事実だ。父もあいつの横槍で何度も会議で煮え湯を飲まされてるんだ。私だってたまにネチネチ言われる」
「うわぁ……」
「あの厭味ったらしい性格はジゼル嬢にそっくり受け継がれているな」
「ブランドン様がジゼル様の婚約者になるのは良いと思います……まだジゼル様には婚約者がいらっしゃいませんし」
「ダフ侯爵は以前騎士団にいた。怪我をしなかったら今でも騎士団にいたはずだ。その辺の軟弱な男よりもブランドンが良いだろう」
「でも、うまくいくでしょうか?」
「考えはある」
そして放課後。
今日はジゼル様がブランドン様をちょうきょ……じゃなくて、勉強を教える日だ。アシュフォード様がお仕事をするお部屋にみんなで集まる。
「今週は茶会など何もないだろう。ダフ侯爵家に行くからブランドン、休日はあけておけ。ジゼル嬢はオトモダチが遊びに来る許可を親に取っておいてくれ」
アシュフォード様が言うと「オトモダチ」って怪しい響きですわ。
「はぁ! 私がいつあなたとオトモダチになったの!?」
「いや、お前。その前にそもそも友達いないだろう」
アシュフォード様、お前呼びはちょっと……。それに事実を言ってはジゼル様が可哀そうです。そんな可哀そうなものを見る目で見ては……。
「いますわよ!」
「例えば?」
「…………グリーマン伯爵令嬢とか」
「なぜそんなに間があくんだ? それにグリーマン伯爵家といえば手広く商売をしている家だな」
「私、エマ・グリーマン伯爵令嬢とはお友達ですわ。彼女はよく友人たちを呼んでお茶会を開きますが、ジゼル様はあまりお見かけしませんわね。気のせいかしら」
エレーナ様がここぞとばかりに援護射撃する。
「じゃあグリーマン伯爵令嬢にとってお前は単なるお得意様だな」
「そうですわね。新商品のお披露目があるお茶会の時は招かれていらっしゃるようだもの。でもその他はねぇ……」
エレーナ様……なんかストレス溜まってます? なんかありました?
「友達がいなくて悪かったわね! でもなんであなた方をオトモダチとして招かないといけないのよ」
「ブランドンに勉強を教えてもらえるのはありがたいが、あまり頻繁に一緒にいると噂になったら困るだろう。ご両親も心配するからな。だから、オトモダチとしてご両親に紹介しておくのが筋だな」
「なんか企んでない?」
さすがジゼル様。察しが良いですねぇ。ブランドン様は「うん、予定空けとくよー。侯爵邸って広いのかなぁ」と呑気に二つ返事ですのに。
「私もご一緒したら、ジゼル様が我が家に泊まりにくる回数が増えても不審に思われません。オトモダチの家にお泊りなのですから。クラブのショーに二カ月に一度は行けるようになりますよ」
私も負けじと援護射撃をする。
「う……」
ジゼル様はやはり夜のショーが忘れられないようだ。ゴクリと喉が鳴ったのを私はしかと見ましたよ。
「そうね。変な形で噂になって侯爵夫妻の耳に入るよりも先に話しといた方が良いわよ。印象も全然違うしね」
お、エレーナ様。さっきのように怖いことはおっしゃらないのですね。もしかしてお菓子出さなかったから機嫌が悪かったんですかね……話をしてからと思ってうっかり出さなかったのですが、さっき出しておいて良かったです。
もしかしたらエドエド殿下絡みでご機嫌が悪いのかもしれませんね。
「分かったわよ! オトモダチとしてご招待すればいいんでしょう!」
「決まりだな。日時が分かったら合わせるから教えてくれ」
アシュフォード様は私の手の甲にキスを落とすと仕事をし始める。
ジゼル様は「なんか負けたようでむかつく!」とハンカチを嚙みながらブランドン様の調教、じゃなかった、勉強のために別室に行ったのだった。