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「私にかかればこんなものよ! おほほほほほ」
「うるさい」
「神様! ジゼル様! ありがとうございます!」
「おほほほほ」
「もぐもぐ。あら、このクッキー香ばしくて美味しいわ。どこの?」
部屋に響き渡る高笑い。耳を塞ぐアシュフォード様。ジゼル様を崇めるブランドン様。
そして、お菓子を1人消費するエレーナ様。
運命のテストの答案返却がされた授業の後、この部屋はスーパーカオスな様相を呈している。
机の上にはブランドン様の答案用紙。語学は平均スレスレだが、あとの科目は平均点よりも20~25点上がっていた。
まぁ、ブランドン様の点数が急に上がったから、カンニングを疑った教師に呼び出されたり、それを知ったジゼル様が教師の部屋に乗り込んだりして、さっきまですったもんだしていたのだ。
「おほほほほほ、見た!? あの教師の顔と言ったら!! おほほほ、うっ! げほげほっ!」
高笑いのしすぎでジゼル様がむせた。
エレーナ様はクッキーを離さず、すぐに水をジゼル様に差し出す。
「げほっげほっ」
ブランドン様は慌てて立ち上がって背中を撫でようとするが、ご令嬢にみだりに触れるのはマズイと思い出したのかハッとし、あわあわしながら、「鎮まれ鎮まれ」とジゼル様から少し距離を取って手をかざす謎の行動をしている。
ジゼル様の一番近くに座っていた私はというと、水を取ろうとするもアシュフォード様に抱え込まれて、汚いと言わんばかりにハンカチでいろんなところを拭かれた。
いやいや、ジゼル様の心配をしましょうよ。唾は飛んでませんから。
一応、祝勝会みたいな感じでクッキー用意したのに、エレーナ様がほとんど食べちゃってるし……。
「はぁ……ふぅ」
ジゼル様はようやく落ち着いたようで、せきこみすぎによる赤い顔で水を飲む。
「まったく、騒々しい奴だな。ただ、ブランドンに付き合ってここまで結果を出せる奴も希少だ。なんなら王家に良い家庭教師がいるとでも紹介するか? 給金もいいし、一生独身でも大丈夫だぞ?」
「げほっ……なんであなたに将来を決められないといけないのよ! 婚約者ならちゃんと見つけられるわよ!」
「気が強すぎて男を言い負かすから、高位貴族からではなく、ダフ侯爵の大嫌いな成り上がりからしか婚約の打診がないと聞いているが?」
「はぁぁ? なんでそんなこと知ってるのよ?」
一応、祝勝会でおめでたいのに、アシュフォード様とジゼル様はヒートアップしていく。いや、ヒートアップしているのはジゼル様だけか。
「ん? そういえばエレーナ様は最近よくこちらに来られますが、王宮に行かなくていいのですか?」
「あなた、よくこの状況でそんなこと聞けるわね……」
この状況とは、アシュフォード様に抱え込まれている私のことだ。アシュフォード様とジゼル様は口論してるし、エレーナ様はクッキーを優雅に食べ続けている。ブランドン様はオロオロしている。
「私の勉強はそのままなのに、エドエドだけさぼって遊びまくるなんて不公平でしょ? これまでその不公平に黙ってたけど、口に出しただけよ。そうしたら久しぶりにお休みをもらえてゆっくり眠れて嬉しいわ」
「まぁ! それは良かったです! ではテストも終わりましたし街のカフェに行きますか? そのクッキーを買ったお店はカフェもあるんですよ」
エレーナ様の目がキラリンと光る。
「いいわね! 早速、今日か明日にでも行きましょう!」
「おい、勝手に私のブロンシェとデートするんじゃない」
「束縛するなんて小さい男ですわね!」
アシュフォード様とジゼル様が急に会話に割り込んでくる。
確かエドエド殿下の軟禁が解けて学園に戻ってくるのは来週からだったはずだけど、大丈夫なのかしら……。