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大変お待たせしました。
やっと落ち着いてきて更新できます。
面白いなと思っていただけたら嬉しいです。
区切りが悪いのでちょっと長めです。
場所は変わって図書室内の個室にて。
ジゼル様は有無を言わさず個室に私を連行した。アシュフォード様は顔をしかめながらも黙ってついてきている。
「ガーディアンクラブなんですが」
「ちょっと! あなたほんとに空気読みなさいよ! 部屋に入ってすぐ直球で話を始めないでよ! このいけ好かない男とそっくりじゃないの!」
ジゼル様は忌々し気にアシュフォード様を睨む。最初からだけどこの2人、相性悪そう……
2人が睨み合い、室温が下がり始めた。腕を見ると鳥肌がたっている。
「えっと、通行証のピンクのヒツジを見ちゃったので」
私の言ったワードでジゼル様は睨み合いをやめ、脱力したようにイスにへたりこんだ。
「はぁ……そうなの……そこまでバレてるわけね……私のお父様に告げ口でもするの? それとも周囲に言いふらす?」
「あ、やっぱり侯爵様はご存知ないのですね? ということは夜から始まるショーをご覧になったことがない? あのクラブは夜のショーが大本命ですのに」
「ブロンシェ、一体どういうことだ?」
うーん、殿方のいる前でこの話をしていいものなのかしら。ジゼル様は先ほどまでの勢いはどこへやら。頭に手を当てて俯ながら、「私だってショー見たいわよ……でもだって……門限が……お父様にバレたら……くっ……私だって目玉のショー見たいわよ……見たいぃぃ」とブツブツ言っている。
「ガーディアンクラブは肉体美を誇る男性たちがたくさん働いていらっしゃるクラブです。食事もでき、お酒も飲めて、ショーもあります。給仕してもらったり、お話したり、接客してもらえるんです。他にもオプションで諸々のサービスがあります。お姫様抱っことか」
「あー……なるほど……」
こっそり耳打ちすると遠い目をするアシュフォード様。
ガーディアンクラブというのは怪我で騎士や冒険者として働けなくなった方たちの再就職先斡旋を目的として作られた店舗でした。最初は事務や運送など多岐に渡る仕事を紹介する店だったはずなのですが……オーナーの奥様の思い付きで始めた現在の業務が人気を博し、今では仕事先紹介はメインではやっていないそうです。
「ん? ブロンシェはなぜそのクラブについて詳しいんだ? 貴族も行くクラブは秘密厳守が前提のはずだが……まさか……通っている……のか……?」
「うちのエリカがクラブの常連なのです」
珍しくアシュフォード様の顔色が悪くなります。仕事のし過ぎ以外では珍しいですね。
エリカはうちの侍女で、給料のほとんどをガーディアンクラブにいる'推し'という存在に貢いでいるようです。まぁエリカはマッチョ大好きですからね……。エリカの推しは訓練中の不慮の事故で隻眼になってしまった元騎士。眼帯姿が凛々しいのだと力説していました。
ガーディアンクラブは一見さんお断りなので、常連さんと一緒に行かないと入れません。2回目からは通行証が貰えて1人でも入店できるようになります。面白いシステムですよね。ピンクのヒツジはオーナーの趣味だそうです。
「ちょっと、そこ! いちゃつかないでくれる!?」
「なんだ、生きていたのか」
アシュフォード様と顔を寄せ合って小声で会話をしていたらジゼル様が復活されました。
そしてアシュフォード様の毒舌が戻ってきています。またバチバチやられたら大変です。寒くて風邪ひきそうです。
「あ、お話の続きをしますね。ということなので、ブランドン様に勉強を教えて頂けたらショーを見られない代わりに、ブランドン様の筋肉を見放題ですよ」
ブランドン様は騎士志望なだけあって常日頃鍛えてらっしゃいますからねぇ。
「あ、触り放題かもしれません」
「な!? そんな破廉恥な!」
ジゼル様は少し涙目になりながらも……しっかり喉がゴクリと上下したのが見えました。
実はエリカから目玉のショーの前に帰る貴族のご令嬢っぽい人がいると聞いていました。エリカもちらっと見ただけで顔まで見たわけではありませんし、その時はそれがジゼル様だなんて全く考えていませんでした。お忍びで通っているご婦人・ご令嬢はいるでしょうから。でもご婦人なら夜のショーも大抵見て帰ると思うんですよね。
ある時、偶然にも学校でジゼル様が鞄から落ちたヒツジのマスコットを異常な素早さで拾って隠すところを見てしまったのです。
何も知らない人が見ればなんてことはない可愛いストラップなのですが、私はエリカのお陰で?知っていました。そして先ほどの会話からジゼル様がショーの前にそそくさと帰るご令嬢ではないかと予想したのです。当たりでした! やったー!
「私を……脅しているわけね……。これで断ったらお父様や周りに言いふらすつもりなのでしょう! そうしたら私は……とんだ笑い者だわ!」
ジゼル様は追い詰められて開き直ったかのようにこちらをキッと睨んできます。
「えっと……どこが笑い者なんでしょうか?」
庇うように前に出ようとするアシュフォード様を押さえつつ、ジゼル様に問います。
「だって! クラブに通ってることが周りにバレたら軽蔑されるに決まってるもの! 注意して変装して行ってたのに!」
「え、特に軽蔑しませんが……個人の趣味ですし。好きなことがあるって素晴らしいことではないですか? うちのエリカはあのクラブのお陰で毎日楽しそうです」
エリカは独り言と不気味な笑いが多いことを除けば仕事のできる侍女。私にクラブのことを話してくれるエリカはキラキラしている。給料ほとんどつぎ込むのかぁと引っかかるが、他人の好きなものを否定する気は私にはない。エリカがストーカーを始めたり借金を色んな所からしたらさすがに止めるけれども。
「あ、もしよければ偶にうちに泊まったことにしてショーを見に行きますか? そうしたら門限を気にせずにクラブにいられますよ。侯爵様もわざわざうちまで真偽を確かめにこないでしょう? ショーが終わったら泊まってってもらえればいいですし。エリカとジゼル様は話が合うと思うんですよ」
ジゼル様はポカンとして、その後考え込み、最終的に真っ赤な顔で私の両手を握った。
「……お泊まりは……その……お願いするわ……。私はその代わりに……犬のテストの点数を上げればいいのよね!」
「欲望がプライドに勝ったな」
アシュフォード様がこぼした言葉は幸いにもジゼル様の耳には入らなかったようだ。
「ブランドンのテストの点を20点ずつ各科目上げてくれ。それか突出した科目を2つほど作ってくれれば他は平均取れれば構わない」
「はぁ! あのバカの点数をそんなに上げるの!? この鬼畜! 無理よ!」
ジゼル様はアシュフォード様には絶対に噛みつく。
「ブランドンと仲良くなれば騎士団に見学に行ったりしやすくなるな」
「くっ……騎士団……」
「稽古も見たりできるかもな。稽古の後はみんなよく脱ぐぞ」
「くぅぅ……け、稽古……しかも……脱ぐなんて……わ、分かったわ! やってやろうじゃないの!」
「わぁ! ありがとうございます!」
喜んでジゼル様の手をもう一度取ろうとしたらアシュフォード様に腰を抱き寄せられてしまった。とりあえずブランドン様はこれで安心かな?
頭上で「うちにも早く泊まりに来てほしいんだが……」と聞こえた気がするが、それは全力でスルーした。
次回はジゼルとブランドンが書けたらいいな。