表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜行紳士  作者: エモトトモエ
4/5

第4話 入院病棟ロビー

 せすんが振り返る間もなく、何者かが現れ、彼の体から何かを掴み取った。それは半透明の赤いかたまりであった。端の方はせすんの体に繋がっている。その時後ろを向いたせすんが飛び退いた。かたまりはせすんの体に消えて行った。

「いいものって、それじゃないよ」

 せすんが言った。「やっと現れたね」

 せすんが口角を上げた。だが目は笑ってなどいない。

 そこにいたのは女だった。看護師のような恰好をしてはいるが、この病院の『今の』ユニフォームではない。青白い顔で両目は大きく見開き、少し開けた口からは腐臭が漂う。

 その姿が消えた。

 せすんが振り向く。またしても女はせすんの背後にいた。手を伸ばしてせすんの体からまた取り出そうとしているのは…

「僕の魂はあまり美味しそうじゃないでしょ」

 女が掴み上げた赤いかたまり。かじりつかれる瞬間、せすんは何かを投げた。

それは女の口元に当たって落ちた。黄色いセロハンの包み。

 女はそれには目もくれず、正面からせすんに襲いかかった。

 せすんはかわす。が、急に体が動かなくなった。

 女が迫ってくる。女はせすんの胸のあたりに手を伸ばすと赤いかたまりを手にした。

 せすんは指ひとつ動かせなくなり、まばたきすらできないでただ女のすることを見ているしかない。言葉を発することもできない。

 女は舌をみせた。細く長い、青白い舌であった。せすんの魂ををずるりと舐めた。

 その瞬間、せすんの動きを止めていた力が緩んだ。好機を逃さずせすんが女の頭を蹴った。

 女がせすんの魂を取り落とした。魂はせすんに戻ったが、体中に痺れた感覚がして痛み出した。

 彼は精一杯の力で女から離れた。

 そしてスーツのポケットに手を入れる…

 女はまた一瞬で近付いてきた。

 せすんはその顔を押して体を倒そうとした。今度は女が飛び退いた。

 せすんがそれを追う。女の姿が消えた。せすんは振り向きざまに肘に力を込めて降った。当たった感触。

 倒れた女に馬乗りになる。片手で口をこじ開け、もう片手で自分のポケットをまさぐり

黄色いセロハンの包みを取り出した。そして女の口に…

 入れようとした。そこを、誰かにそっと奪われた。

 かさっ、と小さな音がして、セロハンの包みがほどけ、丸い菓子が出てきた。

それを取り出したのは、小さな子供を抱きかかえたままのいろはだった。

菓子をせすんの手に戻すと、いろはは子供を抱え直す。

「親子感」

せすんが思わず口にした。

「いいから早く食べさせて」

いろはが言った。「包みは外して食べさせなきゃ、消化に時間がかかるって言ってるでしょうよ」

「それより一個で足りるかな、霊力を弱める薬」

「薬じゃない、お菓子だ」

「どっちでもよくね」

「仕方ないな」

 いろはがポケットから包みを出し、床にばらまいた。掌一杯はある。

 せすんが驚いて、いろはを見た。




読んで頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ