第4話 入院病棟ロビー
せすんが振り返る間もなく、何者かが現れ、彼の体から何かを掴み取った。それは半透明の赤いかたまりであった。端の方はせすんの体に繋がっている。その時後ろを向いたせすんが飛び退いた。かたまりはせすんの体に消えて行った。
「いいものって、それじゃないよ」
せすんが言った。「やっと現れたね」
せすんが口角を上げた。だが目は笑ってなどいない。
そこにいたのは女だった。看護師のような恰好をしてはいるが、この病院の『今の』ユニフォームではない。青白い顔で両目は大きく見開き、少し開けた口からは腐臭が漂う。
その姿が消えた。
せすんが振り向く。またしても女はせすんの背後にいた。手を伸ばしてせすんの体からまた取り出そうとしているのは…
「僕の魂はあまり美味しそうじゃないでしょ」
女が掴み上げた赤いかたまり。かじりつかれる瞬間、せすんは何かを投げた。
それは女の口元に当たって落ちた。黄色いセロハンの包み。
女はそれには目もくれず、正面からせすんに襲いかかった。
せすんはかわす。が、急に体が動かなくなった。
女が迫ってくる。女はせすんの胸のあたりに手を伸ばすと赤いかたまりを手にした。
せすんは指ひとつ動かせなくなり、まばたきすらできないでただ女のすることを見ているしかない。言葉を発することもできない。
女は舌をみせた。細く長い、青白い舌であった。せすんの魂ををずるりと舐めた。
その瞬間、せすんの動きを止めていた力が緩んだ。好機を逃さずせすんが女の頭を蹴った。
女がせすんの魂を取り落とした。魂はせすんに戻ったが、体中に痺れた感覚がして痛み出した。
彼は精一杯の力で女から離れた。
そしてスーツのポケットに手を入れる…
女はまた一瞬で近付いてきた。
せすんはその顔を押して体を倒そうとした。今度は女が飛び退いた。
せすんがそれを追う。女の姿が消えた。せすんは振り向きざまに肘に力を込めて降った。当たった感触。
倒れた女に馬乗りになる。片手で口をこじ開け、もう片手で自分のポケットをまさぐり
黄色いセロハンの包みを取り出した。そして女の口に…
入れようとした。そこを、誰かにそっと奪われた。
かさっ、と小さな音がして、セロハンの包みがほどけ、丸い菓子が出てきた。
それを取り出したのは、小さな子供を抱きかかえたままのいろはだった。
菓子をせすんの手に戻すと、いろはは子供を抱え直す。
「親子感」
せすんが思わず口にした。
「いいから早く食べさせて」
いろはが言った。「包みは外して食べさせなきゃ、消化に時間がかかるって言ってるでしょうよ」
「それより一個で足りるかな、霊力を弱める薬」
「薬じゃない、お菓子だ」
「どっちでもよくね」
「仕方ないな」
いろはがポケットから包みを出し、床にばらまいた。掌一杯はある。
せすんが驚いて、いろはを見た。
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