第1話 裏門
町のメイン・ストリートにあたる国道も、深夜とあっては通る車はまばらで、人に至っては全く歩いている様子はない。
通り沿いの店は殆どが閉まっていて、看板だけが明るく光るのみ。
ただ、ぽつぽつ見られるコンビニやファストフード店などは、まるで時間という概念を忘れてしまったかのように、昼間と同じ顔で客を迎えている。
とあるコンビニの先に、大きな病院がある。
様々な診療科目を持ち入院病棟もあり、健康診断やトレーニング用の施設もある。この辺りでは随一の規模を誇る。
国道沿いには、救急車が入れる広いロータリーが作られていて、深夜でも開放されたままの門から奥の出入口まで、ここも昼間のような明るさだった。
そんな大病院でも、裏に回れば。
大きな建物がいくつも並び、合間には広場や駐車場が作られている。そんな敷地を横断してゆくと、ひっそりとした裏門が見えてくる。
周囲は雑木林や田畑、接する道路はラインすら引かれていない市道。
門からすぐの四つ辻には、小さな祠があった。
ある夜、祠の前に人影がふたつ。
辺りが暗いため、気付きにくいかもしれない。それに彼らは黒いスーツ身にまとっていた。
ふたりは祠に小さな花束を供え、手を合わせた。
「じゃ、行こうか」
言ったのは、腰まで届くドレッドヘアの男だった。
「そうだな、さっさと片付けよう」
もうひとりは、彼より少し小柄で少女のような面立ちをしていた。その童顔に、濃い色のサングラスをかけ、歩き出した。
「ねえ、せすんのそれ、ほんと意味わかんないんだけど」
後を追いながら、ドレッドの男が言う。
「いろはなんかにわかってたまるかよ」
「夜にサングラス、って」
「だって僕達が働くのって夜しかないじゃない。どうせならカッコよくしたいのさ」
「邪魔くない?」
「暑苦しいドレッドよりましー」
ふたりは病院の裏門まで来ると、立ち止まった。
せすんが、病院内のひとつの建物を指差した。
「僕があっちを貰う」
「いいよー。じゃ私が奥ね」
いろはが答え、施錠されているはずの門を、開けた。
つづく
読んで頂きありがとうございました。




