華麗なる男爵令嬢と春の鈴3
その様な密談が階下でされておりましたの
まさか
私が聞いているとは
思っておりませんでしたのでしょうね
私
かくれんぼが得意でございましたので
私が
隠れようと思いましたら
誰も私が目に入らなくなるのでございますのよ
本当に
私が見つかりたいと思うまで
誰にも見つからないものでしたの
その女は
ただの好奇心を満たすためだけに
王の間の神の扉を開けようとしていたのでございます
王太子は
それをお許しになられておりました
神の扉を開けるなど
なんと恐ろしいことか
子供ながらに
私は、なんとしてでも止めなければという思いになりましたの
冬の商人がそこまで来ておりましたのよ
私にはわかりましたの
私
鉛を望みましたの
王太子よりも速く王の間に忍び込み
扉に鉛を注ぎ込むのですわ
結果から申しますと
私が勝ちましたわ
だって
私
かくれんぼが得意と申しましたでしょう
私が見つかりたいと思うまでは
誰にも見つからないのでございますから
王太子の後ろに
くっついておりましても
誰も気付こうとも致しませんでしたのよ
王太子とその娘が
草を使う前に
鍵穴に鉛を注ぐことなんて
簡単なことでございました
私が冬の商人に差し出した温かいものでございますか?
それは
鈴でございます
そう彼の女性が言ったとき
カローヤン伯爵夫人の手の中の鈴が鳴ったような気がした
ああ
今でございます
お鳴らしくださいませ
扉の外の雪が激しさを増し
まるで
雪が扉を叩くような
コツコツとした音が
響き渡った
カローヤン伯爵夫人は
夢中で
鈴を鳴らし続けた
何が起こるのか分からぬというのに
突然
窓が開いたかと思うと
雪が吹き込んできた
男たちが
窓を閉めようと
駆け寄るが
もの凄い勢いの風に
一向に窓が閉められぬままでいると
風にかき消されていた鈴の音が
次第に重なるように二つに聞こえてきたかと思うと
雪が次第に
人を形作り始めた
ああああああ
カローヤン伯爵夫人が
その雪の中から現れた女に駆け寄った
いつの間にか
談話室に戻ってきていた
カローヤン伯爵も、その二人を抱きしめていた
私のたった一つの誤算は
神も散歩に出かけるってことでしたわ
それも
あんなに寒い日に……
彼の女性は
誰も聞いておらぬのに一人静かに話を続けていた
さぁ
これを差し上げますわ
王太子が捨てたものですが
彼の女性は
包帯の男に薬袋を差し出した
私とて
退屈しのぎ位する
さて
これで私も帰られるというものだ
男はそう言うと扉の外へと消えていった
しかし
私以外はそれに気づくものは居なかったようだった
みな
カローヤン伯爵一家にお祝いを言うので忙しかったのである
カローヤン伯爵令嬢は
幼い少女に決してこれを手放さぬようにと渡された鈴は
冬と居ても
鈴の音は春のように穏やかであり
温かかったと
冬の商人は決して無体なことはしなかったと
冬の雪深い日に
どこからともなく聞こえる鈴の音を頼りに
こうしてここにたどり着いたのですと
令嬢は涙ながらに語った
私が見つめているのに気が付いた
彼の女性は
その可憐な赤い唇にそっと人差し指を当てて
静かに部屋を出て行った
次の朝早く
雪は止み
彼の女性は旅立った後であった
その冬
行方不明となっていた伯爵令嬢の生還が
大いに祝われ
神の祝福があったと言う