華麗なる男爵令嬢と春の鈴1
細い絹のような柔らかい髪の毛は、蝋燭の灯を受けて
黄色というよろりは黄金色に輝いていた
そして
ほっそりとした白い手は優雅で
爪の先まで洗練された動きであった
そう
何もかもが創造できうる限り
この世で一番の美しさであった
私が
彼の女性と会ったのは
秋の始め
王都への帰路のことであった
山間の城塞都市にたどり着いたときには
雪はしんしんと降り積もり
道という道は白く覆われてしまった
町の者によると七日はこの町から出られぬであろうということであった
季節外れの大雪に
足止めを喰らった旅人たちでどこの宿もいっぱいであった
社交シーズンに
王都に向かう身なりの良い紳士や商人、
貴婦人といってよい方々もいた
一夜目の夕食は、みながお互いを探り合うような居心地の悪さを味わったが
二夜目には打ち解けた者もちらほらとおり
晩餐はそれなりに会話の弾むものとなっていた
突然
真ん中に座っていた、カロ―ヤン伯爵夫人がグラスをスプーンで軽く叩き
みんなの注視を促した
みなさまで、
夜の慰みに一つずつお話を致しません事?
と言った
雪に閉じ込められた宿では
夜が長く感じられ
誰も異を唱える者はなかった
ただ一人、カローヤン伯爵一人を除いて
カローヤン伯爵夫妻は初老に差し掛かった夫妻で
都でも社交界の中心人物といっても良い方々だった
社交界のシーズンは
王都のタウンハウスで過ごすのが常であるという
みなが談話室に入り
それぞれが居心地のよい椅子に腰かけたころに
伯爵夫人は
一番年若い彼の女性に挑戦的な視線を向けた
私
ボーロン男爵令嬢のお話を是非お聞きしたいと思っておりましたの
多くの楽しいお話をご存知と
都では大層ご人気とか
私は、伯爵夫人の言葉にいささか反抗心を覚え
紳士的道義から
つい自らの手を挙げてしまった
いやいや ここは一つ 私から……
そう言って、
景気づけに
蒸留酒の入ったグラスを一気に飲み干そうとすると
楽しい話かどうかは分かりませんが
私のしたちょっとした旅のお話をお聞かせいたしますわ
ハスキーな
静かで、それでいて力強い声がした