【現在、ザリバン高原地帯14時20分】
左右に展開している敵が目的ではない。
誰かひとり迂回させて敵の側面を突かせようかとも考えたが、側面に回ったとき後ろから新たな敵が出てきた場合、一人では対応しきれなくなり留まってしまう。
一人の時に敵に囲まれて負傷するということは、死に近づくことを意味する。
助けに行くことが出来たとしても、それでは目的が達成できなくなる。
だから俺たちは三人かたまって、真っ直ぐ中央を突破することにした。
敵に気付かれるまでは発砲しない。
ゆっくりでも構わないから、なるべく中央の敵に近づきたい。
夜なら容易いだろうが、夜まで待つ時間の余裕はキムやフジワラなどの重傷者にはない。
ゴロゴロと並んでいる岩は、格好の遮蔽物となってくれるが、それを乗り越えなければならない時が一番危険な時となる。
今までは左右の敵より後ろだったから、なんとか来れた。
しかしこれからは前になるから、正面と左右の三方向から身を隠しながら進まなければならない。
そして、目の前に現れた大きな岩。
岩を右に避けて通ると右の敵から、左側だと左の敵から丸見えになる。
三人で、どうするか目を見合わせる。
戻って別のルートを探すか、それともこのまま進むか。
問題なのは、そればかりではない。
この岩が邪魔をして、その先の状況が全く読めない。
もしも無事にこの岩を通り抜けられたとしても、その先に俺たちが隠れられる場所があるかどうか。
先ず俺が這って、岩の前の様子をみることにした。
目立たないように体を小さくするために、ヘルメットとボディーアーマーを外す。
ヘルメットは音を立てやすいのでそのままにしておくが、ボディーアーマーは後で取れるように腰にロープを巻いて、その先に着けておいた。
前の状態が良いようで有れば、続いてくるようにという合図として、そのロープを引く。
駄目な場合は俺がそのまま引き返し、万が一敵が居た場合は、そこで銃撃戦が始まる。
地面にあるのは土じゃなくてゴツゴツとした石。
蛇のように地面に、へばり付きながら進む俺の体を岩がゴリゴリと撫でる。
顔を右に向けても敵の姿は見えない。
俺くらいの細さだと丁度隠れてしまうみたいだ。
あとの二人は俺よりでかいが、まあ大丈夫そうだ。
岩の前に出ると下が空洞になっていて、その前にも中くらいの岩があり、ちょうど隠れるのには都合が良かった。
ロープを引き、装備を取る。
着用する前に窪みのどこからか、もっと前に行けないか潜ってみる。
すると、前が良く見える小さな穴があった。
抜群の狙撃位置だ。
確認して戻ると、もう二人とも来ていた。
これからの流れを説明しようと思い、二人の顔を見ると何故か目が合わなくて二人とも視線が少し低い所にあった。
視線の先をたどると、そこは俺の胸元。
どうしたのかと自分の胸を見てみると、上着のボタンが千切れて開け、胸がTシャツを前に突き出していた。
「ぐ・ん・そ・う・は、じょせい……」
「いけなかったか……」
「傭兵部隊で一世紀ぶりの女性隊員“GrimReaper”って隊長のことだったんですね!」
「いけないどころか、闘志百倍ですよ。こんな光栄なことはない!」
そう言って、二人は俺に勇気をくれた。
 




