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【2年前、リビア“Šahrzād作戦”⑦】


 マグリブを終えてエマが夕食にしようと言い出した。

 直ぐにイシャ―(就寝前の礼拝)だから混むので、その後にしようと言うが聞き分けのない子供のように駄々をこねる。

 仕方なしにモスクの近くにあった食堂に向かったが、やはり混んでいた。

「やっぱり後にしよう」

「嫌々、エマ、どうしても食べたい。だってお腹ペコペコペコリンなんだもん」

 また始まった。

 それにしても、エマの変わりようときたら一体なんだ?

 基地ではミラー少佐の嫌味も軽く跳ね返してしまうほどの鉄の女のように見えたのに、今じゃただのデカい甘えん坊。

 しかも百合だし。

 仕方ないので、順番を待つことにした。

 待つ間も詰まらないからと言って、俺にベタベタとくっついて来て百合の花は満開で、周囲の男たちが面白がってニヤニヤしながら取り囲んで俺たちを見ている。

 正直、この任務を承諾したハンスを恨む。

「お姉ちゃんたち、どこから来たのかい?」

 前に並んでいた男が声をかけてきた。

 二十代前半の、背の高い調子のよさそうな男。

 フランスだと正直に答えようと思っていた俺の前にしゃしゃり出たエマが、シリアだと答えた。

「そうかい、あっちは大変だね」

「そうなのよ。まったく大統領派と多国籍軍にはホント腹が立つわ。一体誰の国だと思っているのかしら」

“おいおい、俺たちは、その多国籍軍の一味だぞ!”

「そうかい、じゃあ宗教派かい?」

「とんでもない。宗教派なんてまっぴらよ!あいつらアラーの面汚しよ。いったい何人処刑すれば気が済むのよ」

「じゃあザリバン?」

 男の声が、少しだけ小さくなった。

「だって、ザリバンくらいなものでしょ。ぶれずにチャンとアラーのために戦ってくれているの」

「気に入った!姉ちゃん俺たちの前に並べよ」

「あら、ありがとう」

 譲ってくれた男は「シリアから来た同胞だ!誰か席を譲ってやろうっていう、粋な野郎はいねぇか!」

 と店内に向けて大声を上げた。

 すると、直ぐに席を譲ってくれる人が現れて、俺たちは、まんまと直ぐに食事を済ますことが出来た。

 イシャ―を終えて、モスクからでると、さっき食堂で会った男が待っていた。

「姉ちゃんたち、どこに泊っているんだい?」

「海岸線のホテルよ」

「そうかい。あそこは高いだろう。で、いつまで居るんだい?」

「そうね、向こうが落ち着くまでは居たいと思っているんだけど、あとはお金次第ってところね」

 男は、エマの言葉を聞いて上機嫌になり「それなら、おれの知っている家を紹介するぜ。まあホテルに比べれば豪華じゃなくてチョッとムズイ爺さんが一人で経営する食堂の2階が開いている。よかったら明日ファジュル(早朝の礼拝)の時にでも声をかけてくれ。俺は明日もここにいるから、もし見つけられなかったら俺の名を呼んでくれ。俺の名はセバ」

「ありがとうセバ。今夜この子と相談して決めるね」

「ああ、好い返事を待っているぜ。じゃあな!」

 そう言って男は帰って行った。

 モスクを出てホテルに向かう道を黙って歩いた。

 久し振りにエマも黙っている。

 屹度、はしゃぎ過ぎて疲れたのだろう。

 日の落ちた道を一台の車がこっちに向かって走って来る。

 普通の車よりも高いシルエットにディーゼルエンジンの音。

 軽装甲機動車だ!

 合図を送ろうとした俺の腕をエマが掴んで、抱き着いてきた。

 驚きながらも車に目を移すと、フロントガラスに鼻の下を伸ばした間抜け面をしたトーニとモンタナが俺たちのほうを見て通り過ぎて行った。

 どうやら俺に気が付いていない様子。

 エマは軽くキスをしたあと「帰りましょう♪」と言い、放してくれた。

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