【現在、ザリバン高原地帯13時58分】
一瞬俺から視線を逸らした男の、銃を持つ腕を下から上に払いのける。
打撃はさほど強くはない。
それはAK47のセーフティーレバーを上げ、ロックを掛けるのが第一目標だから。
ほかの銃では簡単にはできない。
それはダイヤル式だったり、レバー自体が小さかったりするから。
しかしAK47のセーフティーレバーは馬鹿でかい。
スコープ用のマウントを装着していない限り、それをロックにするのは慣れれば造作ないことだ。
上手くいった。
男が俺をはねのけて、銃を構える。
払いのけられて後ろに仰け反る力を利用して、足を高く蹴り上げると狙い通り銃が空中に舞い上がり、地面に落ちた。
ロックされたレバーのおかげで、俺は撃たれることもなく、地面に落ちた銃も暴発しなかった。
男は素早く腰に付けたナイフを取り出し、寝転んだ俺に飛び掛かってくる。
体を回転させて避けると、再度飛び掛かって来たので今度は受け止めた。
ナイフを持つ手首を握り、腕を逆間接に捻ると見事に手からナイフは外れた。
普通なら、ここで終わる。
逆間接に思いっきり捻じ曲げられた腕は、相当痛いはずだ。
確実に筋が伸びる。
無理に抵抗すると、脱臼することもある。
だがこの男は、ナイフは落としたものの、捻じられた方向に上手く体を回転させて、ブリッジの体制から起き上がった。
レスラー? あるいは体操をやっている者の身のこなしだ。
ブリッジで起き上がった男は、向きを変え俺をホールドしようと飛び掛かってくる。
当然、寝ていた姿勢から起き上がる俺のほうが遅く、後手に回る。
タックルの姿勢が低い!
レスラーだ。
レスラーに一旦ホールドされてしまっては、体重の軽い俺に勝ち目はない。
極限まで体を小さく折りたたみ、タックルをかわすため巴投げで返した。
上手くいった。
投げた体制のまま後ろ向きに回転して起き上がり、倒れた男の胸にエルボーを打ちこむことも考えたが、止めた。
この男を相手に、自ら接近戦を仕掛けるのは危うい。
ここは一旦横に転がり、距離を取って起き上がるほうが無難だろう。
案の定、男はまたしても起用に体を回転させて倒れずに着地し、今度はそのままの姿勢から半身に体を反らしながら後ろ向きにジャンプしてエルボーを打ってきた。
その場で起き上がって居ようものなら、避ける間もなくまともに食らっていたところ。
今度は俺のほうが先に立つことが出来た。
だが、先に立ったところで状況はあまり良くない。
この低く鋭いタックルは危険だ。
男は余程自身があるのか、また低く構えてタックルの姿勢を取り、それをさせまいとジリジリと後ろに下がり距離をとる俺。
今度は巴投げをさせないように、もっと低く突っ込んでくるはず。
たとえ足首であろうが、それをレスラーに掴まれたら逃げられない。
“パキンッ”
航空機の機銃掃射で落とされた枝を踏み、一瞬バランスが崩す。
その隙を、男が見逃さず、タックルするために低く飛び込んできた!
 




