表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/234

【2年前、リビア“Šahrzād作戦”⑥】


 礼拝が終わり、二人で宿を探した。

 エマは交渉が上手い、地中海の見える綺麗な宿を格安で手に入れることが出来た。

 真っ白な建物に、真っ白な部屋。

 カーテン付きのダブルベッド。

 綺麗な薄い青色の大きいバスタブに、お湯を張ると屹度小さな地中海になるのだろう。

 真っ白なレースのカーテンを開くと、目の前に広がる青い地中海。

 白い広いベランダには、同じ色の小さなテーブルと椅子が2脚。

 ベランダに出ると、風が心地好い。

 青い地中海の手前には、もう一つ青いプールがあった。

「凄い!凄い!海の手前にプールがあるよ!見て!見て!地中海を船が走って行く!ほら、あそこを飛行機が飛んでいるよ!」

「嬉しい?」

「うん。すごく……」

 ソファーに腰掛けて微笑みかけるエマ。

 その笑顔は、小さな子を慈しむように優しい。

 そして俺ときたら、はしゃぎまくって、まるで子供みたい。

”いやガキだったら、こんな風に騒ぎ出して煩いんだろうなと思って、マネをして見せてやっただけだ”

 そう自分に言い聞かせて、咳払いをひとつして気怠そうにベランダに肘をつく。

 エマがソファーを離れて近づいてくる。

「敵に見せる鷹のような鋭い瞳と、恋人に見せるドンチェリーのように甘い瞳。そして、まるで子供のような好奇心に満ちた瞳。ボーイッシュに髪を短くしてみせても、可愛さは隠しきれないわね」

(※ドンチェリー = ケーキなどに使われる、さくらんぼの砂糖漬け)

「ねえ……どのナトちゃんが、本当のナトちゃんなの?」

 俺の横に来て、真っ直ぐに俺の目を見て、そう尋ねてくる。

 その焦げ茶色の瞳を、どう見返せば良いのだろうと戸惑い、目を逸らす。

 そして、この隙を狙っていたかのように、エマの唇が俺の唇に重なる。

“やめろ”

 そう言いたくても、口を塞がれて言葉にならない。

 ベランダに寄り掛かっていた体は逃げ道を塞がれ、振り上げた拳はエマの逞しい手に捕まる。

 エマの温かさが体の奥に深く根を張るように侵入して、抵抗する力が徐々に奪われて行く。

 サオリと初めて濃厚なキスをした時と似ている。

 抗えない。

 屹度エマは俺の何かを知っている。

 そして。俺の攻め方も……。


 ベッドの上で、まるで猫のようにじゃれながらこれからの作戦を聞いていた。

 一番大事なことは、敬虔な信者である必要がある。

 神のもとで戦う彼らに近づくには、それが最も重要なこと。

 だから俺たちは、このあとホテルを出てマグリブ(日没後の礼拝)に出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ