【2年前、リビア“Šahrzād作戦”④】
着替え終わって、別のエージェントが運転する車で郊外まで送ってもらうことになった。
車の中で装備を渡され、説明を受けた。
先ずは拳銃。
万が一、銃撃戦になった場合の唯一の武器はベレッタPX4 ストーム サブコンパクト。
装弾数は9mm弾が13発。
予備のカートリッジは、ブーツの外側に施された装飾の中に左右各1個ずつで、本体に装着済みのカートリッジと合わせて39発撃つことが出来る。
あとは、手投げ用のナイフが6本。
2本はブーツの内側。
残りの4本はガーターベルトの内側に装着。
「なんで、内側なんだ?取りづらいし、少し気持ち悪いんだが」
「外側だと、お尻周りを触られた時にバレちゃうでしょ。
まったく、男ってやつはどこまでスケベに出来ているんだか。
あとは、エマは髪を纏める櫛が2本、投げ用のピンになるが、ショートの俺は携帯できない。
それと連絡用の携帯電話。
古いタイプのボタンが付いているやつだが『0』キーの長押しで先端がスタンガンになり『9』キーの長押しで、側に高圧電流が流れる。
催涙ガスが出る口紅に、スプレー缶の裏を強くたたくと煙幕が出るヘアースプレイ。
「まるでスパイだな」
「そうよ。だって情報屋だもん」
そう言ってエマが俺の腕を掴む。
柔らかい、その豊満な胸をグイグイ俺の腕に擦り付けてくる。
「よせ!」
「いやぁ~ん。意地悪ね♪」
エマ大尉に対して敬語を使わない俺もどうかしていると思うが、その受けごたえに対していちいち甘えたような言葉を返すエマも、またどうかしている。
一応の装備の説明を受け、装着するものは装着し終わるころには、目的地に着いた。
時刻はもう三時。
今頃、ハンスたちはどうしているのだろう……。
「ナトちゃん。お腹すかない?」
車を降りるとエマがアラビア語で話しかけてきた。
そう。
既に俺たちは敵地に潜入しているのだ。
鋭い目で、辺りを見渡しながら、昼食を取っていないことを思い出す。
だが、戦場で昼食など、のんびり食べている場合じゃない。
「すいていないから、いらない」
「じゃあカフェ付き合ってくれる?私はお腹ペコペコなの」
「任務中だぞ」
二等軍曹が大尉に向かって言う言葉じゃない。
だから小さい声で言った。
「いいじゃないのよぉ~。エマお腹ペコペコペコリンで死んじゃうかもよ」
くだらないことを言うエマにウンザリして「それだけ胸に脂肪を付けているんだから、三日くらい持つだろう」と言ってやる。
エマは服の上からオッパイを持ち上げて見せて「私、ラクダじゃないから、そんなに持たないわ。ねえ行こ行こ!」
エマが俺の腕を掴み、またもやその巨乳をグイグイ擦り付けてくる。
周りに居た通行人の目が、俺たちに集中する。
「分かった、分かったから離してくれ」
周囲を通る男たちが足を止め、俺たちを見てニヤニヤしている。
“いったい何なんだ、この女……”
目立たないように気を使わなければいけないのに、これじゃ目立ちまくっているじゃないか。
 




