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【2年前、リビア“Šahrzād作戦”①】

挿絵(By みてみん)

 作戦名のシエヘラザートは『千夜一夜物語』の中にある物語からの引用。

 遠い昔、ササン朝ペルシャの若い王は、毎夜寝床を共にした生娘を翌朝に殺害していた。

 何人も何人も。

 そしてシエヘラザードの順番が来て、王と一夜を共にすることになる。

 寝床に着くとシエヘラザートは、夜遅くまで王に物語を聞かせた。

 王が物語の続きを求めるが、シヘラザード「続きはまた明日」と言って寝てしまう。

 続きが聞きたい王はシヘラザートを殺さずに次の日も物語の続きを話すようにせがむ。

 ところが物語の面白い所でシヘラザートは「続きはまた明日」と言って眠ってしまう。

 何日も何日も続き、千と一夜の物語が終える頃には王はもう生娘たちを殺すことをやめ、二人は幸せに暮らすというお話し。

 つまりザリバンのバラクを野蛮な王に見立てた作戦名。

 赤十字難民キャンプに引き取られて、まだ誰にも心を開いていなかった俺に、毎晩物語を聞かせてくれたサオリが聞かせてくれたことを思い出しながらエマ大尉の話す作戦内容を聞いていた。

 作戦内容は、先ず国軍がこの基地よりもバラクの潜入が予想される郊外に近い場所に前線基地を設け、国軍は、そこから引き続き現在の作戦を継続する。

 そしてLéMATは、昼のパトロールから外れ、夜のパトロールを行う。

 国軍と混成だった即応部隊は廃止され、三班のパトロール隊になる。

 即応部隊は郊外に常時待機するのではなく、前線基地に待機することになり、今迄よりも到着時間は若干遅れる。

「それでは、ジープに簡単な装甲板を張り付けた程度のVBL装甲車じゃ持たない」

 珍しくハンスが少しだけ声を荒げた。

 確かにVBL装甲車の装甲は弱いし、3人乗った状態では、狭すぎて弾薬や装備さえも詰めない。

 万が一、車両を盾にして戦わなければいけない場面に遭遇した場合、即応部隊の到着まで持たないだろう。ハンスが怒るのも無理はない。

「それは心配しないで、もう直ぐ新しい車両が到着するわ」

「ハンヴィーは止してくれよ、ありゃただのジープだ」

 ミラー少佐が言った。

 確かに米軍のハンヴィーは、室内は広いが防御力が劣る。

 かといって装甲兵員輸送車や機動戦闘車輌では視界が狭いうえに、反政府市民に対して刺激が強すぎるだろう。

「大丈夫よ。明日、日本から令式軽装甲機動車が届くから」

 令式軽装甲機動車というのは、もともとあった陸上自衛隊の軽装甲機動車のバージョンアップ版。

 軽装甲機動車の装甲・防弾ガラスが7.62mmクラスの銃弾に対する防御力だったのを、令式に於いては12.7mmまで引き上げ、安全性を高めている。

 つまりM82バレットのような狙撃銃にも対応する。

 それに、乗車定員もVBL装甲車の2+(1)に対して、4+(1)。

 しかも、車体上面にはリモコンでの操作も可能なミニガンも着く。

「よく、そんな高価なもの買えたな」

 ミラー少佐が驚いていたように、日本軍の使用する武器は高性能だけど、恐ろしく値段が高い。

「二両だけだけど、買って貰っちゃった♪」

「二両で約1億円かぁ」

 可愛くおどけて言うエマ大尉の後で、アンドレ基地司令が言った。

 兵器はお国柄が出る。

 兵士の命を尊重しない国は、適当に模造品を拵えて使うが、命を大切にする国は少々調達費が高くても良い物を揃える。

 日本、イスラエル、ドイツ、スウェーデンがその代表だろう。

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