【2年前、リビア⑦】
夕食前に国軍と合同で全員ミーティング行った。
いまだにどの班もバラクを見つけられずにいる。
ミーティングにはアンドレ基地司令の他に、DGSE(対外治安総局=Direction Générale de la Sécurité Extérieure)のエージェントも出席していた。
彼女の名は“エマ・ウェーク” 階級は大尉。
背丈は俺より少し高いくらい。
髪は黒く、年齢は20代後半から30代前半くらい。
美人だが、体つきは良い。
男に交じって戦闘もできそう。
トリポリ郊外にバラクが潜んでいると言う情報は、このDGSEによるものだが、一向に成果が上がらないので兵士の多くはこのウェーク大尉を歓迎するムードではなかった。
パトロールのたびに反政府系住民に投石されてうんざりしていたし、もし運よく見つけることができたとしても即応部隊が車で現地に留まるように指示されていて、たった3人の隊員で敵に取り囲まれることになる。
いくら投石されても、一般市民は撃てないことは皆分かっている。
けれども、その中にザリバン兵が居ないという確信はない。
その場合、最大で3名しか乗れないVBL装甲車では、不安だと言う意見は前々から出されていた。
フランス国軍側で掃討作戦の指揮を執る、ミラー少佐がこれまでの作成経過を苦い顔で淡々と話していたが、最後に語気を荒げて言った。
「兵たちはDGSEの指示に従って、毎日危険な地域をパトロールしている。更に強化せよと言われるから傭兵の特殊部隊LéMATにも協力を仰いだ。正直、隊員を危険に晒すだけの価値はあるんだろうな。あんた方の情報は!」
何名かの兵士がパラパラと拍手を送ろうとして、アンドレ基地司令の咳払いが、それを止めた。
ミラー少佐はそのままドカンと音を立てて椅子に腰を下ろす。
怒るのも無理はない。
毎日現地民に中指を立てられて、瓦礫や石を投げられる。
時にはベランダから鉢植えを落とされることもあり、民間人相手に手出しをしてはいけない兵士たちのストレスは溜まるいっぽう。
車両だって傷だらけで、中には防弾ガラスが割られたモノもあった。
次にDGSE(対外治安総局)のエマ大尉が報告する。
「毎日のパトロールご苦労様です。DGSEも民間人エージェントを中心に、その危険な反政府系の民間人に交じって日夜捜索に全力を尽くしています。弱音は聞いたことがありませんから、任務に対する意識に開きがることだけ肝に銘じておきます」
エマ大尉の挑発的な言葉に国軍側からブーイングが起こり、今度はそれをミラー少佐がたしなめた。
「さて、国軍の意識は承知しましたがLéMATのほうはどうかしら?」
エマ大尉がハンスを見て回答を促す。
「なにも」
「なにも?」
「そう。なにもだ」
ハンスの回答に、エマ大尉の困惑した様子が見て取れた。
でも、ハンスの無回答は正しいと思う。
市街に潜入しているエージェントの話が出た後では、肯定も否定も二つに割れたどちらかの肩を持つことになる。
任務に対して肯定すればDGSE。
否定すれば国軍。
そして、今は仲たがいしている場合ではない。
「わかったわ、それでは新たな作戦は、ハンス中尉の傭兵部隊に任せます。作戦名は“Šahrzād”内容については、この後ハンス中尉とナトー二等軍曹に伝達します。国軍は引き続き現作戦を継続」
そしてミーティングは終了し、皆テントから出て行ってしまった。
残ったのはアンドレ基地司令、ミラー少佐、それにエマ大尉と、ハンスと俺の三人。




