【現在、23時02分ザリバン山岳地帯】
輸送機の床を木が撫でる音が墜落の近さと、操縦士たちの必死の努力で水平飛行を保っている事を伝える。
もしかしたら、上手く胴体着陸が出来るかも知れないし、この最新鋭の輸送機は最初から胴体着陸に耐えられる設計だと聞いている。
床下の音が、騒々しさを増す。
「さあっ、そろそろ来るぞ!頭を抱えて!」
俺の左側にいた兵士が大声を上げた。
「頭を抱える?」
「そう。飛行機が墜落するときの、お決まりのポーズさ。なにせ人間の首は頭を支えるには細すぎる。特に君の場合はなおさらだ」
そう言うと、男は頭を抱えるポーズをとってみせて悪戯っぽく笑った。
俺は、その男のマネをして両手で頭を抱えた。
直にバリバリと木を薙ぎ倒す激しい音が伝わり、そのあとにドーンという衝撃と共に、首が激しく持って行かれそうになる。
機内に、衝撃音に負けないくらいの悲鳴が轟く。
シェリダンⅡを固定していたワイヤーが過重に耐え切れず千切れ、ムチのように襲ってきた。
ワイヤーは、俺のヘルメットを霞めると、右横の男の顔を横に引き裂き、その横の男の首を飛ばし、そのまま何人もの体を引き裂きながら、まるでムチのように伸びて行った。
そして、ワイヤーの拘束を解かれたシェリダンⅡは、胴体着陸のGに逆らうことなく前に飛んで行く。
恐らく固定されていたシェリダンⅡの正面の席に座っていた兵士たちは全滅だろう。
戦車が居なくなって、視界の開けた反対側が見えた。
機体の反対側に居た兵士たちも、こちらと同じように千切れたワイヤーにより引き裂かれていた。