【4年前、ヤザとの再会とサオリとの別れ③】
「良く俺だとわかったな……」
「子供の成長した姿くらい合わなくても想像できる。良いように成長した姿、悪いように成長した姿――だが今回は少々たまげたぜ、良過ぎるように成長した姿までは予想できなかったからな。それに銀髪で右目にアウイナイト、左目にエメラルドを付けたオッドアイなんてのはそうそう居ないからな」
(※アウイナイト:英名ではラピスラズリと言われる宝石、ネオンブルーのとても綺麗な発色をします。 エメラルド:三大宝石の一つ。古代から多くの女性たちを虜にし、あのクレオパトラも愛用していたと言われています)
「ところで、ザリバンって何のことだ?」
さっきのバラクとの会話で出て来た名前が気になって聞いた。
人の名前なのか、地名なのか……
「俺はもう直ぐ、この国を出る。ナトーも一緒に付いて来い」
「いやだ!」
さっきはバラクと言う仲間に、もう殺しはさせないと言いながら、ついて来いと言う。
「お前、まさか難民キャンプには居ないだろうな……」
「居たらどうする」
「居るのか」
そう言うとヤザは煙草に火を付けた。
ヤザは余り煙草を吸わない。
俺の知る限り、ヤザが煙草を吸うのは、困ったときだけだ。
「何がある?」
「いや、なにもない……たしかあの難民キャンプには気立ての好い日本人スタッフが一人居るだろう」
「さあ――」
サオリの事だと分かったが、迷惑が掛かったらいけないので知らないふりをした。
「日本人は親切で優しいから、お前のような奴をみたら屹度親切にしてくれるだろう」
「そうかもな――」
「だが、お前が昔GrimRiperと呼ばれた狙撃手と分かったらどうだ?子供だったお前は知らないかも知れないが、70人以上の多国籍軍兵士を狙撃で殺したお前には向こう側で懸賞金が掛けらるほど恐れられていた悪魔だ」
「昔の話だ、それに俺はもう狙撃などしてはいない」
「だが、その日本人が昔のお前の事を知ったら、どうなる?狙撃では70人程だが、本当はもっと沢山の敵を殺しているし、俺と一緒に罪もないただの酔っ払いに爆弾を巻き付けて爆発させた。えっ?!心優しい赤十字の日本人女性が、それを受け入れて今まで通り接してくれると思うか?俺がばらさなくても、いつかはバレる。お前の過去を知った後、誰がお前を庇ってくれる?」
俺の顔を睨むように見つめ、ヤザは話を続ける。
「人を殺したことがない人間には、人を殺した人間の気持ちなんて分かりはしない。たとえ理由がどうであろうと、平和に暮らしている人間から見れば、お前は立派な人殺しだ」
「……」
「それに、難民キャンプを守っている多国籍軍がそれを知ったら、お前は処刑されるだろう。だから、黙って今直ぐ俺に付いて来い」
「難民キャンプなど知らない。俺はたまたま旅行で故郷に戻っただけだ」
「嘘を言うな」
「嘘じゃない!俺はもう昔のような貧乏で哀れな子供じゃない!」
そう言って腕時計を巻いた手を突き出した。
“はったり”
サオリに借りたこの腕時計が安物なら嘘は直ぐバレる。
しかし、ブランド物の高級品ならヤザも納得するだろう。
ヤザは俺の手を取って、その時計を暫く見て諦めたように肩を落として「そうか……」と一言だけ言った。
丁度その時、サオリとミランが通りを歩いて行くのが見えた。
“まずい”
俺は咄嗟にヤザにそれを見られないように、視界を遮り、手を取って話した。
「幼い俺を拾って育ててくれた恩は忘れない。だからヤザも反政府活動など辞めて、普通の暮らしをしてくれ」
「無理だ……出会うのが遅すぎた。俺はもう直ぐここを出る」
「国を離れて何をする」
「似たようなことさ、もう俺は辞められない。辞めた時点で殺されてしまう」
「誰に?」
「仲間にだ」
「さっき居たバラクと言う男か?」
「お前には関係ない。達者でな……」
そう言ってヤザは俺の肩をポンと叩いた。
「ヤザ!」
反射的にヤザを止めようとして抱きついていた。
ヤザは俺の頭を軽くコツンと叩いたあと、肩に手を掛けて体を離し「折角の綺麗なドレスが汚れるぞ」と、そう言って裏通りを奥に進んで行った。




