【現在、12時45分ザリバン高原地帯】
ヤクトシェルダンに乗って輸送機へと帰ると、ゴンザレスが飛んで来てくれて、一緒に負傷したフジワラを担架に乗せて運んだ。
フジワラは気絶したまま。
直ぐに服を脱がせて傷の状態を確認したが、右の肺に貫通痕があったので絆創膏で塞いだ。
今、出来ることがこれくらいしかないのが悔しい。
フジワラの応急処置を済ませて、コクピットに向かう。
「状況は!?」
「コクピット前はもう10数人で問題はあまりなさそうですが、裏に40人、正面にはまだ50人以上。両方とも遮蔽物に隠れていて膠着状態ですが正面の敵は依然戦意が高くて手強い」
これは、指揮官の問題だ。
誰が部隊を纏めるかによって兵士の指揮は変わる。
中東の紛争地域を渡り歩いたヤザが生きている限り、正面の敵は手強いだろう。
「レイは大丈夫か?」
「ああ、やっこさん軽機関銃を破れた外壁に引っ掛けて、器用に撃っていまさぁ」
話しながらコクピットに向かうと、なるほどゴンザレスの言う通り、器用に撃っていていつの間にか足に重傷を負った兵士が給弾役に付いていた。
「キム大丈夫か?」
夢中に射撃しているキムに声を掛けたが返事がない。
「こいつ、あれから2回もヘッドショットを決められて耳をやられている」
「怪我は大丈夫なのか?」
「ああ、怪我はない。その代りヘルメットを2個替えた」
ゴードンが明るく言った。
俺は無線を取りジムに砲弾の残り弾数を確認した。
残り4発と回答があったので、撃たずに待機するように言った。
弾切れになった戦車は厄介だ。
砲撃して来ると思うから、敵もビビる。
ビビるから、焦って撃ち狙いも外れる。
だが砲弾が切れたと分かると、ただの視界の悪い箱だ。
自ずと敵RPGの射撃制度も上がる。
弾の切れた戦車でも遮蔽物としては使えるが、大量の燃料を抱えているので、さっき俺が片付けたシェリダンⅡのように爆破されると被害も甚大だしこちらの戦意も喪失してしまう。
使い勝手は悪い。
だからと言って、下手に扱うことは出来ない。
味方の兵士からは守護神のような存在だから敵にも味方にも、最強のものであり続けなければならない。
コクピット正面の敵をレイとキムに、そして一旦指揮をゴードンに任せ、その間にジムとゴンザレスと俺の三人で後部ハッチ側にバリケードを施すことにした。
バリケードを築く前にハッチの下に潜り込む。
「大丈夫か?」
「ええ軍曹、新たに2名負傷しましたが軽傷です」
さすがにここは狭いだけあって防備が固い。
「これから、戦車を一旦裏側の敵用に回す。そのためハッチの空洞部分が弱点になるので、そこにバリケードを築く。あと1時間足らずで味方の応援が来るから頑張ってくれ」
「OK!聞いたか皆、もう少し頑張ろうぜ!」
「よっしゃー!あと一時間たてば仰向けになれるんだな!」
「ひょーっ、そろそろ俺様のデカ物が蒸れてミミズになりかけていた所に朗報だぜ」
情報的に孤立すると不安になりやすいので状況報告をしたが、さすがは怪我をしていても選らばれた兵士たちだ。
怪我の痛みを我慢しながら戦っているというのに、冗談を言い合って明るく振る舞うこいつらを絶対無事に基地に帰してやると決意を固めた。
弾薬の残数に不安が無いか確認して、ハッチの下から戻った。
「さあ、バリケードを築こう!」
「了解!」
さすがにジムとゴードンは体がデカいだけあって、重い物でも軽々と運ぶ。
その姿を見ていると、ここにモンタナが加われば百人力なのだろうなと思い、その姿を思い浮かべると緊迫した戦場なのに不意に可笑しくなった。
 




