【4年前、ヤザとの再会とサオリとの別れ②】
“まだ生きていたんだ”と思う反面、正体を知られてはマズイと思い無視して通り過ぎようとした。
チラッと見ると、向こうも気が付いていない様子。
無理もない、ヤザと別れたのはもう7年も前の事。
俺もまだ小さかったから、分かるはずもない。
上手くやり過ごして通りの影を曲がろうとしたときに、もう一度見ると呆気にとられたような間抜けな顔をしていた。
“何かに気が付いたのか?いいや、まさか……ただ、美人にビックリしているだけだ”
通りを曲がって裏通りに入ると、そこは表通りの華やかさとは打って変わって暗い雰囲気がした。
匂いも臭い。
それにも増して、通りに屯す人達の目がギラギラとして、まるで獲物を狙うような不気味さを感じた。
「よう、姉ちゃん。迷子かい?」
「俺と遊ばないか」
直ぐに二人のチンピラに前を塞がれたと思ったら、他の奴らも出て来て、結局8人のチンピラに囲まれた。
さらに後ろからも駆け寄って来る男の足音。
“9人か……”
チンピラ9人なんて、なんてことはない。
だけど、今は戦いたくない。
折角サオリが買ってくれた服が汚れるし、綺麗な髪形も化粧も台無しになる。
それにも増して、サオリたちに心配を掛けたくなかった。
横に移動しようとしたが、直ぐに塞がれた。
「綺麗な服だな」
ひとりの男がスカートの裾を摘まんだ。
「汚い手で触るな!」
俺は、裾を摘まんだ男の手を捻り上げて、払い除けた。
「なんだと、このアマ!」
“一触即発。もう喧嘩は避けられない”
そう思ったとき、俺の後ろで「やめろ!手を出すな」と声がした。
ヤザの声。
「これは俺の娘だ、触った奴は容赦しねえ」
「なにもんだぁ?!オッサン!」
チンピラの一人が食って掛り、ヤザの首に手を掛けた途端、ヤザに投げ飛ばされた。
「やるのか!このジジイ!」
何人かがナイフを出す。
「やってもいいが、今は娘の手前、やりたくねえな。それよりもお前らバラクに無断で、この俺を始末しようって言うのか?」
チンピラたちはバラクという名前を聞いて、あからさまに躊躇った。
「俺の名はヤザ。お前の名前は何と言う?」
ヤザは最初にナイフを取り出した男の腕を掴み、その手に持ったナイフを男の喉元に向けた。
「んっ?名前は何という?自分の名前すら忘れたのか?」
ヤザの名前を聞いた途端、チンピラたちは完全にビビッている。
「ぃよう!ヤザ。いつ来た」
背後から新しい声。
振り返ると、背の高い男が取り巻きを5人連れて近づいて来る。
「よう、バラク。まだ生きてたか」
ヤザはそう言うと、持っていた男の手を掴み、ナイフでゆっくりとその男の顎に傷をつけて呟いた「今度喧嘩を仕掛ける時には、相手の顔を見て考えろ。見ても分からなかったときは、この傷を触って何が最良なのか考えろ」
男の顎にクロスされた傷が書き込まれ、零れ落ちた血が乾いた地面に黒い模様を作った。
「なにか、ウチのものがトラブルでも起こしたのか?」
「いいや、なんてことはない。美人を連れ歩くと良くあることだ」
「なるほど!これはナカナカの美人だ。白人ってのが気に入らないが」
バラクは俺の顔を覗き込んで言った。
「よせ!俺の娘だ」
「養女か?……そうか、GrimReaperは残念だったな」
「ああ」
「後釜か?」
「もう、殺しはさせない。今日はプライベートで来ている。あいにく娘が通りを間違えてね、じゃあな」
「ああ、次はザリバンで!」




