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【現在12時40分、ザリバン高原地帯②】


「引っ張って行くぞ、少々痛いのは我慢しろ」

「了解、ボス」

 ほふく前進しながら、負傷したフジワラを引っ張って進む。

 歩くよりも遅いが、敵には気付かれにくい。

「来た」

 仰向けに引っ張られているフジワラが言った。

 空を見上げた途端、ボーッという亡霊の叫び声のようなM61 バルカン砲の音と戦闘機の金切り音が青い空を貫き、正面の森に砂ぼこりが舞い上がる。

 戦闘機は、まるでタッチダウンするように森を抜けると機首を上げ、飛び去って行き次の二機目も同じルートを機銃掃射して行った。

 そして三機目のルートは後ろの森。

 この攻撃に驚いた、後ろの森の敵兵が森を出て来やがった。

“万事休す!”

 遮蔽物の無い草むらでは防げない。

 地鳴り。

 そして戦闘機の爆音。

 機銃掃射の音。

 近づいて来る地鳴りのような音。

「軍曹、ありがとう」

 そう言って、俺の胸のベルトに残った最後の手榴弾をフジワラが取り上げた。

「何をする!」

「軍曹は輸送機に戻って皆を指揮して下さい。俺一人のために皆を見捨ててはいけない」

「黙れ!」

「俺は大丈夫です。近づいて来る敵には、この手榴弾をお見舞いします。そしてこの戦闘が終わって、まだ俺が生きていたなら連れて帰ってください」

「だめだ!」

 フジワラは、どういうつもりか俺に覆いかぶさってきた。

「頑固だな、貴女は。じゃあ、俺が弾避けになってあげます。なにも一緒に死ぬことは無い」

「やめろ!なにを……」

 振りほどこうとしたが、出来なかった。

 それはフジワラが俺の胸の上で「日本に残してきた恋人の香りがする」と幸せそうに言ったから。

 地鳴りは直ぐそこまで来ていた。

 俺は手袋を脱ぎ、素手でフジワラの頬を優しく撫でた。

「どうして分かった?」

「だってボディーアーマーを脱ぎ捨てたら、体の線が細かったし、俺を担いでくれた体の柔らかさで……」

「すまない」

「いいですよ、敵を倒すのが兵隊の務めなら、女性を守るのは男の務めですから」

 負傷したフジワラを見捨てられない以上、これが最も有効な手段かも知れない。

 そして、俺も覚悟を決めた。

 いや、決めなければならないと思い、フジワラにこのような覚悟を決めさせてしまった自分自身に悔しかった。

 そう思ったとき、近づいて来る地鳴りのような音に違和感を覚えた。

”これは大勢の人間が走って来る音ではない!この近づいて来る地鳴りは、戦車だ!”

 草が邪魔をして辺りは見えないが、激しい銃声に混じって、微かにキャタピラの音も聞こえる。

「フジワラ!助かるぞ!」

 覆いかぶさっていたフジワラに話し掛けたけれど、返事はなかった。

 首を触ると、脈は有る。

 体を除けると、ボディーアーマーが引き裂かれていて、脇腹の辺りから出血していた。

 草むらの中から突如姿を現したのは、やはりヤクトシェリダン。

「隊長!迎えに来たぜ!」

 止まったヤクトシェリダンの後部ハッチが開き、銃を撃ちながらジムが降りて来た。

「フジワラが負傷している!」

「OK!」

 二人で気絶しているフジワラをヤクトシェリダンに乗せると、ジムが「出せ!」と言った。

「誰が運転している!?」

「俺の隣に居た相棒でさあ」

 フジワラの応急処置をしながら、どこで運転を習ったのか聞くと、さっきジムに習ったばかりだと答えて笑った。

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