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【3年前、フランス傭兵部隊入隊試験⑱】

 筆記試験初日。

 午前中の試験は、フランス語と英語、それに科学の、ごく簡単なもの。

 健康診断を受けたあとの、午後の試験は数学と物理で、これも易しかった。

 テストが終わり宿直室に戻ると、まだ誰も居なかったのでシャワーを浴びた。

 正直このテストが、俺の入隊を阻止するための物だと聞かされた時は心配したけれど、初日の試験内容を見た限りでは、そうでもないような気がした。

 二日目は丸一日講習を受けて、三日目はその講習内容に添った筆記試験と技能試験。

 四日、五日と講習を受けたけど、時間の足りない部分も多くあり、それは渡されたテキストを読んで自習するように言われた。

 手にいっぱいのテキストを渡されて宿直室に戻る時、偶然モンタナとブラーム、それにトーニが通りかかった。

「いよう姉ちゃん、試験は順調かい?」

「重いだろう?持ってやるよ」

 俺が断る間もなくブラームが、ひょいっとテキストの束を取る。

 さすがにボクサーだけに手が早い。

「まだ居るってことは、そうとうだな、オマエ」

「どういうことだ?」

 モンタナが変な事を言うので、聞き返すと周囲を確認して小さな声で話し始めた。

「実はな……三日前の午後に射撃訓練用の、実弾の在庫管理票を事務所に届けに行ったとき、偶然秘書官のメェキの野郎がテシューブに怒られているところを聞いちまったんだ」

 ちなみにテシューブと言うのは、俺を面接した禿げ頭のオヤジ。

 三日前と言うのは、試験の初日。

 話の内容は、試験内容が優し過ぎたのではないかと言う事と、外部に漏れてはいないかと言う事。

 それに対して秘書官のメェキは、言われた通りに一般の入隊試験用ではなく一等軍曹用の試験を用意したと答えて、なおかつ今回は特別に新しい問題を用意したので外部に漏れるはずがないと言う事だった。

「ひぇ~。あいつらが慌てるってぇことは、ナトーお前下士官試験合格したんだな!誰かさんとは大違いだぜ、やるなぁオマエ」

 トーニに腹を、どつかれて、そのトーニはモンタナにどつかれていた。

「アホ、一応俺も下士官だ!」

「しゃらくせえぜ!この前三等軍曹試験に落ちたばかりの、万年伍長の分際で」

「なにお!じゃあ下士官でもねえ、万年上等兵のお前は何様だ」

「俺様は色んな事に責任を負いたくねぇから、兵卒で充分なんだよ。本気出して見ろ、直ぐに将軍様だぜ!」

「アホ!傭兵から将軍になれるかよ!」

 二人の痴話げんかをよそに、ブラームが「受かっておめでとう。だが、次の試験は用心しろよ、きっと士官用の試験を持ってくるぜ」と忠告してくれた。

「ところで、お前たち用事は?まさか、それを伝えにワザワザ来たわけじゃあるまい」

 トーニと喧嘩をしていたモンタナが思い出したように「隊長いるかい?」と、言った。

「いや、俺は未だ宿直室に戻っていないから、居るかどうか分からない」

「じゃあ、一緒に行ってみようぜ!」

 トーニが俺の腕を引きながら、子供のように言った。

 結構可愛い。

 さすがはイタリア人。

 守衛にICカードを見せて、俺は宿直室に上がるゲートを潜る事が出来たが、あとの三人は止められて面倒な書類を書かされていた。

「時間が掛かりそうだな」

「いつもは、こんなに厳重じゃない」

 ブラームが諦めたように、俺にテキストを渡そうとすると、それも取り上げられてチェックされていた。

 階段を急ぎ足で降りてくる音に気が付いて振り向くと、ハンスが居た。

「まったく、お前らは何の用だ?ここは士官以外立ち入り禁止って事ぐらい知っているだろうが」

 すれ違いざま、ハンスが困った顔をして俺を観て言う。

「士官同席だったら良いんだろ!」

 トーニが笑って言う。

「手続きが面倒だろうが」

 そう言いながらも、何やら手続きの書類にサインをしていて微笑ましい。

 面倒なことに巻き込まれたとばかりに士官らしい守衛が「特殊部隊だから、まだ許可できるけれど、一般兵は無理だからな!」と怒っていた。

 手続きが終わり、皆で二階に上がろうとしたとき、トーニだけが呼び止められた。

「だから、一般兵は無理だと言っただろうが」

「俺だって、特殊部隊だぜ!」

「許可できるのは、士官の他は特殊部隊の下士官または下士官補佐役までだ、だから伍長・兵長は許可できるが、それ以下のお前はたとえ特殊部隊でどんなに偉くても許可できん!」

「そんなぁ~」

「じゃあな、責任のない兵卒くん!」

 モンタナがトーニに嫌味を言って階段を上がって行った。

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