【4年前2月、中東紛争地域、赤十字難民キャンプ】
国際郵便が届いた日、サオリに呼ばれた。
「正確な誕生日までは分からないけれど、君の年齢は恐らく15歳よ」
嬉しそうにサオリが言う。
「誕生日は6月14日でしょ」
「それは、君がここへ来た時の日にちでしょ」
そう、私がここに来た日を誕生日として、毎年この日にお祝いをしてもらっていた。
「それじゃなくて、君がこの世に命を授かって生まれた日が本当のお誕生日なのよ。私が勉強した大学に依頼しておいたんだけど、今の科学では残念だけど年齢までしか分からなかったの。ゴメンね」
「別に生まれた日なんてどうでもいいよ。だって私自身そのときのことを覚えていないのだから」
そうサオリに伝えると、それでも貴女が命を授かった大切な日だと言われた。
「別に私なんかが生まれてこなくたって、なんにも変わらないわ」と、答えるとサオリは珍しく怒った。
もっと自分を大切にしなさいと。
「ナトちゃん。貴女に出会えて私は本当に嬉しいのよ」
そう言ってサオリは私の体を抱きしめて泣いてくれた。
休日にサオリとミランの三人で、街へ買い物に出かけた。
外見はポンコツだけどジープの内は、ことのほか快適で楽しかった。
「見た目以上に快適でしょ」
「まあ、古いのは仕方がないけれど」
「これ、フランス製?」
「いいや日本車」
「サオリの?」
「違うわよ」
「こういう、まともな整備が出来ない所では日本車が一番良いのさ」
「なんで?」
「壊れないから。それにしてもナトちゃんは日本が好きだね」
「うん。大好き!だってサオリが生まれた国だもの」
日本のことを褒めてもらえると、まるで自分が褒められているように嬉しくなる。
「いっそのこと、サオリが帰国するときに一緒に連れて帰ってもらえば?」
「えっ!いいの?」
「いいよぉ~。でも、そのためには日本語をもっと勉強しなくちゃ。もちろん、その他の勉強が優先だけどね」
「うん。頑張る!」
街に着くと、通りに車を置いて日用品や雑貨の買い物をしたあと、ブティックに入って服を見た。
「ねえナトちゃん、これどう?」
サオリが私に見せたのは、ノースリーブのワンピース。
「あーっ、可愛い!屹度サオリに似合うよ」
「私じゃなくて、貴女に」
「私?……嫌だよ、なんか女の子みたい」
「女の子でしょ」
「だって、スカートはいたことないもの……変、だから嫌」
「そうかなぁ、似合うと思ったんだけど。見てみたいなーナトちゃんのスカート姿」
「もうっ、意地悪!嫌なものは嫌なの!」
「まあ、男の人に恋するようになったら、私が勧めなくても自然にスカートを履くようになるか!」
サオリがそう言ったので、私は「スカートなんて一生履きません!」と、ベロを出してアカンベーをすると「まだ子供ね♪」と笑われた。
結局、その日はワンピースを買わずに、お店を出た。
キャンプに戻った夜、勉強の合間に外に出て星を眺めていた。
風が冷たい。
広い空にぎっしりと敷き詰められた星空。
屹度、この星空は数時間前には日本でも見られた空。
星々は動くことなく世界を見守っている。
時を越えて――。
急に、いつかワンピースを着てサオリを驚かしてやろうと思った。
そう思うと、体が火照るように熱くなり、夜の寒さを忘れていた。
 




