【3年前、フランス傭兵部隊入隊試験⑮】
「外人部隊は女を募集していない。だから、君がいくら入りたいと言って来ても、それは却下される。なのに……、そもそも君がここに来る前から、その事は分かっていて来させないために第一分隊からフランソワ、ジェイソン、ボッシュの三人を出した。あいつらなら素人相手には丁度いいからな。そしてこれが第一試験だった」
あの郊外で俺を襲った奴らのことだ。
「偶然、出くわさなかったのなら却下することも出来る約束だったが、君は三人を倒してここまで来た」
「約束?誰と?」
「相手は知らない。屹度、俺では手の届かない上の方の奴だ。だから君は、その手の届かない上の方に居る親に頼んで入隊を希望しているのだと思った」
「だけど俺には親はいないよ」
「俺は出来る限り入隊を阻止するように試験をしろと言われたが、無駄だった。君は全てにおいて最高の成績を上げたから」
「ハンスには負けたけど」
「俺くらいには負けろ。なにせ俺はここのチャンピオンだからな、俺まで負けたら面目丸つぶれだ」
そう言うと、久し振りに明るく笑った。
「だが、正直モンタナとブラーム……モヒカンと黒い男だが、あの二人があれほど簡単にやられるとは思ってもいなかった。言っておくが俺の舞台は、ここで最強の特殊部隊で、あの二人はその中で最も腕の立つ第四分隊のエースだ」
「道理で強いと思ったぜ、ほんの少しでも間違えば、秒殺されたのは俺の方だったからな」
「何が動いているのか知らん。だが、明日から始まる試験、舐めてかかるなよ」
ハンスの言葉に、今度は俺が笑う。
「何が可笑しい」
「だって、落とすように命令されていたんじゃなかったのか?」
「Fuck!!」
ハンスが天を仰いで小さく言って、二人で笑った。
勘定を済ませて店から出る。
「どこかで遊びたいか?」
「いや、戦う準備をしなくてはならない。遊ぶのは入隊が決まってから誘ってくれ」
ハンスがニコッと笑みを見せてくれた。
車で部隊へ帰ると、正門の所に見覚えのある顔が三つあった。
モンタナとブラーム、そして審判をしていたお喋りなトーニ。
「隊長遅いぜ、どこに行って……」
車から降りたハンスに向かってトーニが文句を言いかけて止めた。
「おっと、まさか美女とデートだったとは驚き」
モヒカンのモンタナが言い、黒人のブラームが“ヒュー”と茶化すように口笛を鳴らす。
「しっかし、こりゃあ飛び切りの美人だぜ、隊長いつのまにこんな美人と知り合った?」
トーニが俺の顔を覗き込んでハンスに言うものだから、俺もハンスも笑い出してしまった。
その様子を見てもまだ三人は気が付かない。
「お前ら、もう忘れたのか?あれだけ打ちのめされたと言うのに」
その言葉にモンタナとブラームが「あっ!」と声を上げて驚いた。
「あの時の!?」
それでもトーニだけは、まだ分からならしく「あの時って、お前らだけ抜け駆けしてどこに行った?」と言うものだから、俺が腰を振って見せてやると、ようやく気が付いて。
「おいおい、どうした事だ、俺様と有ろう男がこんな美女を見間違うだなんて」と頭を抱え、みんなで笑った。
「隊長、言われた物」
ブラームが、そう言ってハンスに小箱を渡した。
「すまんな」
ハンスはブラームから小箱を受け取ると、代わりに車のキーを渡して、停めておいてくれと頼んで俺に目で行くぞと合図した。
目ざとくトーニがそれを見つけて「隊長、お楽しみかい」と軽口をたたいたものだから、ハンスに「アホ」と言われた挙句、明日はモンタナと一緒に筋トレをするように命令され、モンタナから「喋るのが嫌になるくらい鍛えてやるから、今夜は早く寝る事だな」と言われ悲鳴を上げて連れて行かれた。
「それじゃあ隊長」
ブラームも、そう言って車を出した。




