表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/234

【3年前、フランス傭兵部隊入隊試験⑭】

挿絵(By みてみん)

 用紙には一週間分のスケジュールが表に書き込まれていた。

 先ず明日は午前中3時間の筆記試験の後、午後からは健康診断があり、その後また2時間の筆記試験。

 二日目は午前中3時間と午後4時間の講習。

 三日目は午前中筆記試験のあと、午後からは技能試験。

 四日目と五日目は丸一日かけて各種講習を受ける。

 一日の休日を挟んで、二日続けて筆記試験を受ける。

 ただし、初日の筆記試験、三日目の筆記及び技能試験の成績が基準点以下の場合、そこで不採用が決定し以降のスケジュールは行われない。

「傭兵になるのは簡単なのかと思っていたけれど、こんなに大変だとは思ってもいなかったよ」

「いや、普通は簡単だ」

 ここでウエイターが食前酒を持って来たので、用紙を折りたたんで、ポーチに仕舞う。

「なにこれ?」

 俺の前に置かれたのは、桃色の炭酸水。

「それはベリーニと言って桃のピューレをシャンパンで割ったものだ。美味いぞ」

「ハンスの前に置かれた、その透明なのは?」

「これはスパークリング・ウォーター。車で来ているからね」

「すまない」

「いいさ、そんなに酒は好きじゃない」

 二人でグラスを持ち上げて乾杯をした。

「君の未来に」

「ハンスの……武運に」

 カチンと澄み切った水色の音が鳴り、ベリーニを口に着けた。

 果実の甘い香りと、シャンパンのスッキリした喉越しが疲れた体に染みわたる。

 だが幸せに浸っている場合ではない、中断した話の続きを聞かなくては。

「話の続きだが、普通と言うと?」

「普通は最初にやったグラウンドでの試験にパスすれば、あとはごく簡単な筆記試験をして合否が決まる」

「じゃあ、道場での試合や、武器のメンテナンス、射撃の試験は?」

「もちろん普通は、無い」

「酷いな」

 そう言って、俺はハンスを睨んだ。

「おいおい、この試験を指図したのは俺じゃないぜ」

「そうだな、すまない」

 そこで食事が運ばれてきたので、いったん話を止めて食事を楽しむことにした。


 色鮮やかで可愛い野菜とサーモンのオードブルを食べたあと、澄み切ったスープが運ばれ、オードブルの皿が片付けられた。

「一つずつなんだね」

「全部一緒に来るとでも?」

「だって、フリーペーパーなんかには沢山皿が並べられているじゃないか」

「ひとつずつ乗せたらページが沢山要るだろうし、訳が分からなくなるだろ?」

「なるほど、考えたものだね」

 俺の答えを聞いてハンスが笑う。

「えっ?なにが可笑しい?」

 君は、あれだけ強くて、銃の扱いにも長けているのに、まるで子供みたいだな。

「そうか?」

「親は何をしている?出身は?」

「親は知らない。物心ついた時には中東にいたけど、産まれたのはそこじゃない気がする」

 ハンスがスプーンをテーブルに置き「すまない」と言った。

「いいんだ。気にするほどのことじゃない。生まれつきだから何とも思わない。さあ!次は、どんな御馳走が来るんだ?」

 俺は努めて明るく言った。


 運ばれてきたのはシュリンプを使った料理。

 白い皿に、朱色のシュリンプと黄色いクリーム、それを彩るクレソンの緑が、とても綺麗。味も癖がなくスッキリしていて美味しい。

 それを食べ終わると、シャーベットが出て来た。

「これで終わり?」

「いや、次に肉料理が出てくる」

 その言葉は、なにか考え事をしているように感じたが、今はスルーしておいた。

 ハンスが言った通り次にボリュームのある肉料理が出されて、その後にフルーツのデザート。

 そして最後に俺には紅茶、ハンスにはコーヒーが出された。

 紅茶を飲みながらハンスに聞いた。

「一体何を考えていた?」

「なにも」

「一週間だけの付き合いになるかも知れないから、隠し事は無しだ」

 俺がそう言うとハンスは重い口を開けた。

「一体何がある」と。

「何があるとは?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ