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【3年前、フランス傭兵部隊入隊試験⑫】


 いつの間にか眠っていた。

 そして久し振りにサオリの夢を見た。

 お正月に、お雑煮を食べた夢。

 おかわりをした容器には“お餅”が2個入っていて嬉しかったけど、いったんお箸をおいてしまうと握り方が分からなくなり、またサオリに教えてもらって食べた。

 それからサオリに日本の話を沢山聞かせてもらい、お昼には、そのお餅を焼いた。

 四角い塊が、焼いて行くとだんだん膨らみ始めて、膨らみ切ろうとした瞬間に小さな穴が開き、まるで疲れたようにプウ~っと息を吐いて萎むさまが、とても可笑しくて笑った。

 何個も何個も同じように焼けるのに、それを見るたびに笑い、涙が出てお腹が痛くなるほど笑った。

 笑い過ぎたところで目が覚めた。

 目が覚めても、あの頃のことを思い浮かべる。

 一生に一番笑った日。

 もう、あの日には戻れない。

 小窓の下から車の止る音が聞こえた。

 まだハンスが来るまでには30分ほど時間があったので、シャワーを浴び、洗面所で歯を磨いた。

 あいにくドライヤーは無かったが、ショートヘア―なので乾きは早い。

 タオルで髪を乾かしているとき、また車の止る音。

 時計の針は18時09分。

 屹度、ハンスだ。

 ワザとらしい大きめの足音が近づいて来て、ドアの前で止まりノックされる。

 時計を見ると18時10分ジャスト。

「いいよ」

 ドアが開くと、そこにはパリッとした礼装用の軍服を着たハンスが居た。

「行くぞ」

「どこへ?」

 外出するとは聞かされていたが、どこへ何をしに行くとは聞かされていなかったので聞くと、食事と買い物に行くと答えが返って来た。

 お金の余裕があまりなかったので気が進まなかったが、わざわざ礼装で来てくれたのだから今更断るわけにもいかないので従った。

 車はエレガントな赤いメタリックの洒落た奴。

「ハンスの車?」

「そうだ。あまり使わないが見栄を張って買った日本車だ」

 日本という響きが嬉しくて、直ぐに乗った。

「何故、日本車を?ここはフランスだろ」

「ここはフランスだが、俺はドイツ人だ」

「ドイツ人なら、メルセデスかBMWじゃないのか?」

「それも良いが、日本車程丈夫じゃない。なにせ数か月ほったらかしにしていても直ぐエンジンが掛かるからな。ブランドよりも車としての信頼度は遥かに高い」

 ハンスが日本車の事を好く言ってくれると、まるで自分が褒められているように嬉しくなる。

「お前、日本車が好きなのか?」

「いや、俺は日本が好きで、いつか行ってみたいと思っている」

「それは残念だ」

「なぜ?」

「入隊できたとしても、平和な日本に派遣されることは無いだろう?」

 そう言ってハンスは笑い、俺も笑った。

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