【3年前、フランス傭兵部隊入隊試験⑩】
しばらく、そこで待っているとジープに乗ったハンスがやって来た。
「乗れ」
「合格か?」
「いや、次のミッションに進めるだけで、まだ合否の判定は出ない」
俺がジープに乗ると、ハンスはゆっくりと発進させた。
「なあ、聞いてもいいか?」
運転して前を向いたままのハンスが言った。
「いいけど……何?」
「どうして、爺さんのハンマーを撃った?」
「あのタイミングで大工道具を出すのは不自然だし、ハンマーでも当たれば負傷するから」
「では、なぜ殺さなかった?」
「ハンマーで危害を加えると言う発想は、俺の思い込みかも知れないからだ」
「なるほど……では、親子三人に襲われたとき、どうしてマシンガンを使わずに拳銃を使った?そして何故子供にその銃を投げた?」
「拳銃の残り弾数が2発だったからだ。子供なら僅か833グラムの拳銃だと言っても鉄の塊は相当な武器になるから投げた。ヒントはお前たちのレイアウトに隠されていただろ?」
「老人のハンマーの仕返しか」
俺が「そうだ」と答えると、ハンスは愉快そうに笑った。
「最後に、何故屋根の上の敵を撃った。いや、撃てた?」
「それは、君が仕掛けた罠だろ?」
「罠?」
「ゲームの最初に言っただろ“終了の合図はこの街の鐘の音だ”と。その言葉には、鐘が鳴り始めたときなのか鳴り終わったときなのかと言う肝心の言葉が抜けていた」
「そうだったか?」
「とぼけるな!」
そう言うと、愉快そうにハンスが笑い出したので、俺も笑った。
「なぁ、多国籍軍の兵士を盾にした民兵を撃っただろ。あれは実際の経験に基づいて俺が作らせたんだぜ。よく気が付いたな」
「しかし、持たされた弾薬を使い切ってしまうゲームなんて厳し過ぎるぜ」
「ああ、それは今日だけ。通常はその二倍持たせているが、それでも弾を切らしてしまう奴が大勢いるのに、よくやった。あの弾数でクリアできたのは俺の他には、過去に一人しかいなかったのに」
「酷い試験もあったものだな。確実に俺を落すつもりじゃねーか」
「まったく、誰の指図やら……」
「ハンスの独断じゃなかったのか?」
「俺はそんなに意地悪じゃない」
「――まあ、そう言うことにしておいてやろう」
そういう会話をしながら二人で笑っていた。
車の中、風に打たれながら思った。
こうして笑うのは、サオリたちと暮らしていた頃以来、久しぶりだと。
そして、太陽が西に傾く中、いつまでもこのドライブを楽しみたいと。




