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【現在11時30分、ザリバン高原地帯】

 狙撃兵に撃たれたキムはヘルメットをかすっただけで助かった。

 もっとも最新型のこのカーボンファイバー製のヘルメットなら、正面から当たったとしても貫通はしない、が正面では首への負担がだいぶ大きい。

 かすったのは幸いだ。

 300メートル先から一発でヘッドショットを決めてくるとなると、テロ側の兵士としては。そうとう手強い。

 ゴードンと俺の二人で狙撃兵を探す。

 フジワラは後部ハッチなので、敵が位置を変えた場合半身が見えてしまい危険なため、なるべく奥に入るように、他の物には顔を下げて相手から見えないように指示して、ゴンザレスには天井の窓から全体を監視するように命令した。

 ゴードンは場所を変え千切れた機体の僅かな隙間から、そして俺は一旦外に出て機体の翼の上に登り、そこから探す。

 ヘルメットは上に出過ぎて発見されやすいので外す。

 機首付近に敵の二発目が当たる音と、キムの驚く声が聞こえた。

 挑発。

 スコープを覗き狙撃兵を探す。

 森の中には沢山の敵兵が隠れていた。

 だが今は、ひとりひとり始末している余裕はない。

 撃てば狙撃兵に見つかる。

 木陰で休憩する者、弾薬を運ぶ者、慌ただしく駆け回る者、双眼鏡で監視する者。

 その中に、意外な人物を発見して目が留まる。

 ヤザだ。

 たしか最後に会った時、ヤザは俺にこう言った。

“もう、ここはお終い”だと。

 ヤザは双眼鏡を構え兵士たちに何か指示を与えていた。

 まったく偉くなったものだ。

 俺はスコープの照準をヤザの額に合わせる。

 だけど、今は撃たない。

 三発目の銃声が鳴り、ゴードンの罵声が聞こえた。

「Fuck!!」

「どうした?」

「発見された!」

「怪我は?」

「怪我はないが銃を遣られた」

「危なかったな、銃を変えて暫く待機しろ」

 狙撃戦では興奮した方が負ける。

 冷静な心と、深い注意力が必要。

 その、どちらかが掛けても殺られる。

 双眼鏡を覗いていたヤザが、それを外し誰かに話し掛けた。

 だけどヤザの向いた方には誰も居ない。

“おかしい”

 俺はヤザの向いた方を注意深く探る。

 草むらと木に覆われた中、木の枝の先に微かに銃口らしきものが見えた。

 それが狙撃兵の銃なのか、ただ単に置かれた物なのかは判断がつかない。

 俺はゴンザレスに全部ハッチの前を駆け足で通り抜けるように指示した。

 身を屈めて、なるべく早くと。

 ゴンザレスが窓の下から床に降りる音が聞こえた。

 そして走り出す音も。

 スコープの中の銃が素早く動き、機体に鋭い金属音が響く。

 普通の輸送機なら走り抜けたゴンザレスは、やられていただろう。

 だが、これはC237。

 側面の壁は防弾仕様だ。

 敵は罠にかり、そして罠にかかった事にも気付く。

 銃口が激しく左右に揺れ、そして上を向く。

“見えた!”

 木の陰で見えなかった、その姿を捉えた。

 若い、堀の深い男。

 銃声が鳴り、どこかで鳥が鳴き声も上げずに羽ばたいて雲一つない空に昇る。

 地面に置かれた銃に若い葉が落ちて、その葉の上を虫が歩いていた。


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