【狙撃、現在、ザリバン高原地帯】
戦場が静まる。
ゴンザレスとフジワラが状況を確認し、ハンドマイクで報告に来た。
「新たな負傷者なし」
「具合の悪化した者も、いません」
先ずは第一波を防いだところか……。
「味方からの連絡は?」
「まだ何も」
無線交信を開始したレイに、モールス信号で送信してみるように言う。
「信号機が有りませんが……」
「マイクを叩いて送信してみろ」
彼は直ぐに納得して、ナイフを取り出してマイクを叩き出した。
次の攻撃が来ない。
砲塔を失い転がったシェリダンⅡ、高原の草原に転がった幾つも屍、そして壊れた輸送機と残骸。
それらが無ければ、心地よい風の吹く眺めの良いティータイムに最適な清々しい高原。
こんな所で……いや、どんな所でも、なぜ人々は争わなければ生きてゆけないのだろう。
ひと時の静寂を打ち破ったのはRPGの発射音。
「RPG!」
キムが叫んで知らせ、身を屈める。
続いて迫撃砲の音。
RPGも迫撃砲弾も初弾から当たってはこないが、いくら頑丈にできた輸送機とはいえ、所詮岩やタコツボほどの防御力はないので放ってはおけない。
ゴードンとキムに軽機関銃でRPGの発射点周辺を狙うように指示する。
持ち運びの容易なRPGの欠点はバックドラフト(発射煙)が大きいこと。
通常この様な兵器を使用する場合は、発射後速やかに移動する必要があるが、テロ兵士の多くは自分の戦果を確認するまでこれをしない。
だから、比較的簡単に掃討し易い。
そして迫撃砲。
訓練された正規軍なら迫撃砲は森の奥。相手から見えないところに隠し、着弾観測員からの情報をもとに仰角などを修正するが、一般的なテロ兵士はこれをしない。
迫撃砲を撃つ本人が着弾点を確認して修正するから、比較的こちらからでも迫撃砲を確認しやしやすい。
そして予め、迫撃砲などの設置に適したところにはトラップを仕掛けておいたから、その仕掛けを解除するために双眼鏡を睨む。
一門見つけた。
中央付近のくぼ地。
そして、その奥にも二門。
迫撃砲の頭の部分しか見えないけれど、装填主が次弾を筒に入れる所。
その直ぐ後ろには、バナナのように木に吊るされた迫撃砲弾。
床に自分の銃を置き、M82に持ち替え、そして狙いを付けてトリッガーを引く。
戦車砲のような独特の発射音が、二丁の軽機関銃の音を掻き消す。
撃ち出された12.7mm弾がロープを切り裂き、吊るされていた砲弾が落ちる。
激しい土埃が上がり、遅れてドーンと言う爆発音が届く。
続いてその隣、そしてその隣も。
三門目の迫撃砲が陣地ごと爆破された時、キムが雄叫びを上げて身を乗り出し「ざまあ見やがれ!」と汚い言葉を履いた。
俺は直ぐ身を沈めるように言ったが、一瞬遅く、キムの体は後ろからロープで引かれるように倒れた。
「パーン」という発射音が、後から追いかけて来た。
「スナイパー!」
ゴードンが大声を上げ、皆にそれを伝えた。




