【Is Paris burning?(パリは燃えているか)㊼】
飲み会が終わったあと酔ったエマが泊まると言い出して、メエキが仕方なく来客用の部屋を用意したが、今度はひとりでは眠れないと駄々をこねて、俺が一緒に寝ることになった。
俺が一緒に寝ることになり、機嫌を取り戻したエマは、部屋に入るなりサッサとシャワーを浴びてベッドに横になる。
しばらく様子を見ながら、お喋りをしていたけれど、俺も眠くなってきたのでバーベキューの油煙でベトベトしてしまった体を洗い流すためにシャワーを浴びに入った。
温かいシャワーを浴びながら今回のパリでのこと、そしてエマと出会ったリビアでのことを思い出していた。
なんとなく、今回のエマは、おとなしかったな……。
そのことがズット気になっていたから。
部屋のシャワーを浴び終わり、ベッドに向かうとエマはもう眠っていた。
開けたシーツを肩まで掛け直してそっと自分の部屋に戻ろうとしたとき、エマに手を掴まれ振り向くと、そこにはお酒に酔っているエマではなくハッキリと正気のエマが居た。
よく見ると、そのエマの目には涙が溜まっている。
「どうしたのエマ。悪い夢でも見たの?」
まるでお母さんが子供に言うような言葉が、自然に出た。
エマは涙で潤んだ目を大きく開けて俺を見て言った。
「ごめんね。私、何も出来なくて」と。
屹度、今回の作戦の事だと思った。
DGSEの任務は、外国向け。
国内のテロに対して、エマたちが表に出ないのは当たり前のこと。
「なにも出来ないことはなかっただろ。エマが居なければ、この作戦自体がなかったじゃないか」
「ううん。そう言うことじゃなくて……私、DCRIの更迭された前の担当課長が、ナトちゃんに何か悪だくみを仕掛けようとしているの、何となく分かっていたの。でも、それを止められなかった。それにあの護送車の時だって何も出来ずに、おまけにレイラ救出作戦だって、まんまと敵に欺かれてしまって……」
いつの間にかエマの大きなブラウンの瞳から、幾つもの涙が零れ落ちていた。
俺は、バスローブを脱ぎ、シーツを捲ってエマの隣で横になる。
「いいよ、そんなこと気にしないで。DCRIの前の課長はハンスが糾弾してくれていなくなったし、新しい課長からはチャンと謝罪もしてもらったよ。そしてレイラ救出作戦はベルが片を付けてくれた。人間は万能じゃないから、ひとりで何でもできる訳じゃない。だから友達や仲間が、そして恋人や家族がいるんだろ。そんなことで、くよくよするなんてエマらしくないぞ」
エマの涙を手で拭いながら話を続けた。
「知っていたよ。エマが何かに苦しんでいること」
「知っていた……」
「それが何かは分からなかったけれどね。だって作戦の後半、いつもの元気ハツラツなエマじゃなかったから」
「ゴメン。心配かけていたのね」
「いいさ、エマの悩み事が私だってわかって、ますますエマが好きになったよ。いつも気にかけてくれて、ありがとう」
そう言うと、エマの体を抱き寄せて、その唇に自分の唇を当てて、直ぐに顔を離してエマの目を見つめて言った。
「好きだよ、エマ」
「私も大好きよ、ナトちゃん」
エマが俺を抱き寄せる。
俺もその手に身を委ねた。
「ナトちゃん、傭兵部隊では男扱いなんでしょ」
「そうだけど……」
「じゃあ、今のナトちゃんは男なの?」
「さあ、それは――」
なにか答えようとした俺の唇を、エマの唇が塞ぐ。
「脚、寒い?」
そう言って、お互いの脚を絡め合う。
その夜はベッドで、お互いの疲れた体をお互いが眠りについてしまうまで、いつまでもいつまでも温めあっていた。




