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【Is Paris burning?(パリは燃えているか)㊺】


 パリは守られた。

 ザリバンが仕掛けて、それを逆手に取ったエアガンのイベントは大成功を収め、現地で配られた国軍のパンフレットに付けておいた入隊届には何十人もの応募があった。

 それに比べて可哀そうなのはドローンのイベント。

 折角のドローンは全て墜落して使い物にならなくなるばかりか、飛行禁止地区でドローンを飛ばした条例違反により、罰金を喰らった上にきつくお叱りも受けたそうだ。

「レイラは?」

 作戦の最終報告会が終わったあと、エマと二人でシャンゼリゼ通りを歩いていた。

「あの人は大丈夫よ、今回の働きで恩赦が出たの。でも死んだことになってしまったけど」

「死んだことに?」

「そう。……発表だけだけどね。本人の希望よ」

「どうして?」

「死んだことにすれば、ザリバンももうレイラを奪回しに来ないでしょ」

「でも困るでしょ。名前はどうするの? それに働き先だって」

「名前は今まで通り。働き先も」

「働き先も……?」

「そうよ。DGSEが面倒見る事になったわ。今までは収容所の中だったけれど、これからはオフィスよ」

「ありがとう、エマ」

「私は、なにも――」

 嬉しくて、街中なのに軽く抱きついてしまった。

 街を歩く人たちが一瞬足を止めて振り返る。

「ここじゃ、駄目よ……」

 エマは優しく、おでこにキスをしてくれて抱きついていた俺の手を解く。

「しかし、何があるか分からないものね」

 再び歩き出したとき、エマが呟いた。

「なにが?」

「今回のノートルダム大聖堂襲撃よ。私たちはザリバンの動向を必死に探っていたというのに、作戦の鍵を握っていたのはザリバンとも私たちとも何の関係のない一般人とは……」

 そう――悪気は何もない。

 ドローンの参加者だって、ノートルダム大聖堂の辺りが飛行禁止だということは分かっていたはず。

 だけど、主催者がそこでイベントを催すと言えば、許可を取っているものと信じてしまう。

 そしてドローンに張り付けるように言われた認識証のタグだって、誰もそれがリチウムイオン電池を爆発させる発火物だとは思わないで、単なる競技に必要なICチップか何かの類だと思ってしまう。

 文明の進化と共に、戦い方も変わる。

 中世のように、甲冑に剣を持つ者だけが戦うのではない。

 今回のように、知らず知らずのうちに戦いに加担してしまう事もあるだろう。

 それは今回のザリバンだけではない。

 テレビやインターネットだって、情報を操り、人を洗脳する力を持っている。

 そして悪人は、自らの手を汚す来なく平穏に暮らしている人たちを操る。

 何事にも流されず、よく考えて行動しなければ身の安全も守れない不自由な時代……。

「ちょっと寄っていく?」

 いつの間にかエマのマンションの前まで来ていた。

「ちょっとだけならいいよ」

「あら、チョットだけなの?」

 エマが、つまらなそうに言った。

「ああ、調べたいことがあるんだ」

「勉強家ね」

「そうでもないけれど……」

 話をしているうちに、エレベーターに乗って、エマの部屋まで来ていた。

「お酒飲むでしょ?!」

「お酒? それだとチョッととは言わないだろ」

「いいじゃないのよ。折角無事に作戦が終わったんだもの、学生だったら報告会の後は祝勝会よ。それなのに、お堅く解散だなんて……カクテルが良いでしょ!」

 エマがキッチンの戸棚を開けて、楽しそうにこっちを見て言う。

「じゃあギムレット。作れる?」

「あいよ♪」

 その時、ドアの方でドンと言う爆発音がした。

 慌ててワルサーP-22を抜いてドアの方に走ると、後ろからエマが「ドアの外に出ちゃ駄目よ!」と言いながら追いかけて来た。

 ロックを外し、そーっとドアを開けると、そこに在るはず廊下がない。

「あー、残党が居たのね」

 あとからドアの外を覗き込んだエマが、下を指さすと、落ちた床の上に2人のザリバン兵らしき人影がのびて居るのが見えた。

「そうか、ドアを爆破しようとしたら床が落ちる仕組みだったんだね」

「そうよ――」

 そう答えるエマは、何だかとっても嬉しそう。

「どうした? 床が抜け落ちて不自由じゃないのか?」

「そうでもないわよ」

 そう言いながら俺に腕を絡めて、カクテルグラスに入った淡い緑色のギムレットを差し出した。

「だって、床が落ちてしまったから、今夜は帰れないでしょ♪」

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