【Is Paris burning?(パリは燃えているか)㊷】
5人を倒して直ぐに、飛び込み前転のように体を回転させて、ソファーの影に隠れたが、こんな木と皮で出来たもので銃弾は防げない。
せいぜい一時的に、居場所を不明瞭にするだけ。
飛び込んだソファーから、次のソファーに移るときに素早くカートリッジを交換して更に撃ち、2人倒した。
残る敵はメヒアの他に、あと2人。
敵は俺が何処に隠れたのか、見失ってしまったようで、一瞬銃声が止んだ。
「馬鹿野郎、相手は一人だ撃ちまくれ! そのうちに何発か当たって悲鳴を上げる」
おそらくメヒアの声だろう、悪党らしく、いいところをついてくる。
こうなれば、撃たれる前に撃つしかない!
ソファーからバーカウンターに移り、射撃体勢に入ろうとした瞬間、俺の後ろから2発の銃声が鳴る。
「ナトー、遅くなってスマン」
「俺たちがエレベーターに乗り込むとき、足の不自由なお婆ちゃんも一緒だったからな」
ハンスとブラームの声。
「いいよ。こんな悪党のために、お婆ちゃんに辛くあたることはないさ」
そう言いながら、バーカウンターから立ち上がった。
残る敵はメヒアだけ。
「おとなしくレイラを開放して投降するんだな」
ハンスが投降を呼びかける。
「投降? 冗談じゃない。確かに俺の方が不利な状況だが、逃げ切れない状況じゃない。なにしろ、こっちには人質が居るからな」
「撃って! ナトー、私に構わないでメヒアを撃って!」
「うるさい! 人質は黙っていろ!」
人質を取る犯人は、必ず人質の影から顔を出して辺りの様子を窺うものだが、メヒアは、その体を低く構えて上手にレイラの影に隠れて俺たちから見えないようにしている。
少しでも顔を出せば、確実に撃たれることを知っているようだ。
「へっへっへ、何を考えているか分かるぜ。俺がなぜ顔を見せないのかと考えているのだろう。普通の人質犯なら顔を出して様子を窺うよな。ところがどっこい、さっきのその綺麗な姉ちゃんの射撃の腕を見たところ、少しでも顔を出そうものなら、あっと言う間に昇天させられちまうのが分かったんでね……。俺は銃には詳しいから発射音を聞いただけで、どの銃を使ているか分かる。姉ちゃんの銃はワルサーP-22、ハンサムボーイはスプリングフィールドXD-S、黒いのはSIG P-938の22口径。制服勤務じゃないからみんな小さい奴を持って来たって訳だな。お前たちの銃ではレイラ越しに防弾チョッキを着ている俺の命を奪えやしない。ところが俺の銃はスミス&ウェッソンM500。残念ながら今日は500S&Wマグナム弾じゃなくて普通のマグナム弾だが、この距離ならレイラ越しにお前たちを撃っても、簡単に防弾チョッキを打ち破って命を奪うことが出来る。レイラを殺せないお前たちと、殺してお前たちの命まで奪うことのできる俺、どっちが有利かな……」
メヒアの、長い話が終わったとき、微かに部屋の風が動いたのを感じた。
この部屋にある、もうひとつのドアから誰かが入って来たに違いない。
その誰かは敵か味方か……。
もしも敵だとしたら、俺たちの負けだ。




