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【Is Paris burning?(パリは燃えているか)㉟】


 暗いクローゼットの扉が開き、手足を縛られたまま、服の襟元を掴まれて出された。

「よおレイラ、気分はどうかな?」

 メヒアが、ご自慢の金歯を見せて笑う。

「いいわけ無いでしょ。早く縄を解いて頂戴!」

「“疑わしきは罰せず”と言う言葉があるが、それでは悪の道は生きていけないんでね。むしろ少しでも疑わしければ罰していかなければ生き延びていくことは出来ない。つまり“疑わしきは罰する”だよ」

「ザリバンは悪の組織ではないはずよ!」

「ほう――また、きれいごとを」

 そう言うとメヒアは私の顔を覗き込む。

 悪党独特の濁った眼差しではない。

 まるで純粋無垢の赤ん坊のように澄み切った……いいえ、この世の物とは思えないほど、目の奥でギラギラと輝いている炎が放出されているのが見えるくらいに冷たく澄んだ“悪魔の目”。

 その眼差しに捕らえられると、自分の瞳の奥にある無数の神経細胞を通じて、まるで頭の中で考えている事を読み取られてしまうような怖さを感じて、目を逸らした。

 私が目を逸らしたのを見て、なにか分かったように、また金歯を見せて笑う。

 はったりなのか、それとも本当に心を読み取ったのかは分からない。

 メヒアは、しばらく私を探るように眺めていたが、そのうちにそのギラギラした目を窓の外に移した。

 ホテルの窓からは、正面にノートルダム大聖堂がハッキリと見え、それに向かって葉巻の煙を吹きかける。

 歴史的な背景や、建造物としての価値など分からないメヒアにとっては、ノートルダム大聖堂もこのビルもただの建物に過ぎない。

 こういった無知な悪党のために、今までに幾つもの歴史的建造物が壊されてきたのだ。

 メヒアがロシアンティーを飲んでいるとき、副官のヒネモスの携帯が鳴った。

「――なに!? それで?――何とかできないのか?!」

 部屋中が凍り付くような緊張した空気が流れる中、メヒアだけが動じずに「なんの電話だ?」と普段通り……いや、普段よりもより落ち着き払った声で聞き返し、それでまた部屋が冷たく凍り付いた。

「チュイルーリ公園で行う予定だったエアガンのイベントが敵にバレました」

 緊張した声でヒネモスが言う。

「それで?」

「はい、駅には軍用車が出迎えに来て、参加者たちはこぞってそれに乗り込み、傭兵部隊の演習場に向かっているので、警備の混乱に紛れてノートルダム大聖堂に攻撃を仕掛けるのが難しくなるかと……」

“失敗は死”

 そのおきてが更に部屋の空気を重くする。

「かまわん。突入させろ」

「……しかし」

「いい余興じゃないか。そうなんだろ、ジャジェイ」

「はい。こっちの方は、予め見破られる含みを持たせてあるので問題はありません」

「そうか――しかし忘れるなよ。そのためにワシの部下が死ぬことを」

「はい。その点は申し訳なく……」

 それまで飄々としていたジャジェイの表情が青ざめた。

「まあいい。作戦に死人は付きものだ……お互いにな」

 メヒアは、ゆっくりと冷めたロシアンティーを口に運んだ。

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