【Is Paris burning?(パリは燃えているか)㉜】
DCRIに着くと、エマも来てくれていた。
「一体どう言うこと?」
「これ」
俺は急ぎ足で廊下を歩きながら、持って来たチラシをエマに渡す。
エマは、チラシを見て改めて驚いていた。
リズから指定された中会議室に入ると、担当課長をはじめ数人が待っていた。
会議室のテーブルモニターには、チュイルーリ公園を中心とした地図が映し出されていて、既に警備体制の見直しが検討されていた。
「はい、チラシ」
パソコンを操作していたリズにチラシを渡すと、これを一体どこで見つけたのか聞かれたので図書館の掲示板に貼られていたと返事を返した。
「どうりで……」
リズは他の部員と目を合わせて溜息をつき、黒人の担当課長が説明してくれた。
「私たちも馬鹿じゃない。当日の現場周辺に人が集まるツアーや、行われるイベントは調べ上げているつもりではあった。しかしこのイベントはその検索網に引っ掛からなかった。それもそのはずで、私たちが調べていたのはネットの中の情報で、このイベントはそれを避けるようにネットには公開されていなくて図書館の掲示板を情報伝達手段として利用されていた。これが敵の仕業なら、おそらくパリだけじゃなくあちこちの図書館や駅、公園や商店などに配布されている可能性がある」
「しかも応募は郵送になっているから、これじゃあ参加者名簿も出て来やしないわ。さっきから調べていたけれど、たまにヒットするのは個人レベルのLINEやSNSくらいな物よ。これじゃあ何の役にも立たない」
リズがパソコンから顔を離し、お手上げの表情を見せる。
「しかも、これを見て下さい」
担当課長がタクトを持ってテーブルモニターの何カ所かを指し示す。
「チュイルーリ公園へ行くための交通手段の問題なんですがね、例えば車だとテロの候補地である凱旋門やエッフェル塔付近を通ります。鉄道だと更に厄介になる。例えばサン・ラザール駅からだとオペラ座を通り、北駅・東駅だとルーブル美術館を通り、リヨン駅・オステルリッツ駅からだとノートルダム大聖堂とルーブル美術館を通る。しかもモンパルナス駅からだと、今回の重点警備対象ではないがモンパルナスもサンジャルマン、オルセー美術館を通って来ます」
「駅で検問を行って防ぐことはできないの?」
「そんなことをしたら、駅から出ようとする人の流れが堰き止められて大混雑になるし、そこでもし犯人グループが発砲や自爆しようものなら大惨事ですよ」
「そっか……お手上げね」
ガックリするエマ。
「郵送なら、それを受け取る場所があるはずだが」
「それは調べてみますが、難しいでしょう。この受付は昨日で終わっていますし、受取先は私書箱を利用している。もしも主催者が犯人グループだとしたら、既に私書箱を登録した住所は引き払っているでしょうな」
「テレビやネットを使って、中止を呼び掛けてみたら?」
リズが言った。
「それも難しい。参加者全員がそのテレビ放送やネットを見るかどうか、信じるかどうかにかかっていて、必ずしも全員来ないとは限らないし敵にこちらが情報を知ったことを知らせる事になり更なる混乱を招く恐れもある」
この情報社会に於いてネットを利用せず、チラシや郵便などの古いアナログ時代の情報伝達手段を利用するとは敵ながら考えたものだと思った。
だが、対抗策は必ずあるはず。
しばらく沈黙する会議室。
ふと、ある事を思いつきハンスに連絡をしてみた。
返事は『出来ないことは無いが、面倒だな』と言いながら引き受けてもらい、会議室で皆と相談の上それを対抗策とすることとなった。




