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【Is Paris burning?(パリは燃えているか)㉚】


 いよいよサミットが始まると言う2日前、レイラから連絡が入り俺たちはDCRIの会議室へ向かった。

 LÉMAT(傭兵特殊部隊)からはハンス中尉の他、マーベリック少尉、ニルス少尉、それに俺と事務長のテシューブの合計8人が参加した。

 広い会議室には内務省の幹部とDGSE(対外治安総局)のエマ大尉や、RIDO(フランス国家警察特殊部隊)のベルたち、それに髪を切ってショートボブになったDCRI(国内情報中央局)リズ、国軍のDGGN(国家憲兵総局)、それにパリ警察も来ていてその中には復職したミューレ警部も居た。

 先の件で更迭された担当課長に替わり、新しく着任した黒人の担当課長が、今回入手した情報の内容を発表し会議は始まった。

 情報によると発信源はパリ郊外にある移民受け入れ施設付近で、テロの決行場所はノートルダム大聖堂、日時は4日後のサミット2日目であることが報告された。

 冒頭DGGNの方からレイラの居場所が分かっているのなら面倒なことを省いてその居場所に踏み込めばいいのではないかと言う意見が出たが、DCRI側が分かっているのはレイラの位置だけで会って、そこに組織の全員が居るわけではないので危険だと反論したことで暫く激しい議論になった。

 たしかにDGGNの言い分も分かる。

 たとえレイラの居場所しか分からなくても、じっくりとその付近に出入りする人物を調べ上げれば、テロを企てようとしている一味を一網打尽に出来るかも知れない。

 けれども今回は、その調べるだけの時間の余裕がない。

 下手に行動を起こしてしまうと、折角分かった犯行場所や犯行日時を替えられてしまい作戦自体が混沌としてしまうばかりか、情報発信源であるレイラの命さえ危うくなる可能性もある。

 会議の終盤になって、それまで殆ど議論に参加していなかった傭兵部隊の体裁を繕うように、事務長のテシューブが情報の信ぴょう性について聞いた。

 今更の質問に、一瞬静まり返る会議室。

 嫌な空気が流れる。

 場の空気が読めないテシューブは“一杯食わせた”とばかりにご満悦の表情。

 誰も発言しない中、パリ警察のミューレが口を開いた。

「情報の信ぴょう性については“いまさら感”はあるものの、我々刑事にとってはガセネタなんてものは付きもの。相手の決行日が4日後であることが本当の情報かガセなのかは、情報元を送り込んだDCRIで既に検討済みだからこの場を設けたものだと信じるが、いかがですかな?」

 ミューレの質問に、DCRI担当課長が「もちろん信ぴょう性については、十分確認した上だが、あくまでも確認であって“100%確実”かどうかまでは今のところ分からない」と発言し会場が少しざわついた。

「この手の情報に100%なんて望めないし、望むべき者でもない。それは諜報員を潜入させても同じこと。そうですよね、二重スパイでお困りのDGSEさん」

 話を振られたDGSEのエマの上司が額の汗を拭き頷いた。

「結局、情報が入った以上、我々は動くしかない。そうでしょう、事務長のテシューブさん――それとも、なにかご不満でも?」

 今度はテシューブが、遮るものが何もない頭から流れる汗を、その頭頂部から表に裏にと、しきりに拭いながら「や、やるしかない。か、確認までです」と苦しそうに言った。

「しかし、確実では無い以上、対策は必要なはずですよね。我々傭兵部隊としては、そこの議論が必要だと感じていた」

 それまで黙っていたハンスが発言した。

「確かに、対策は必要ですな」

 内務省の幹部からもハンスに同調する意見が出て、会議の議題はその対策について話し合われ、結局全ての候補地での警戒を厳重に行いつつ第1候補であるノートルダム大聖堂には主力を置くことと、交通規制をして各候補地間の移動を迅速に行えるようにすることが決まった。

 そして最後にレイラの確保について話し合われ、作戦開始と同時進行することで、その身の安全を図ることが決まり、会議は終わった。

 午前中に始まった会議が終わり、ビルの外に出たときにはもう辺りは真っ暗で、街灯や色とりどりに飾られた店の看板の下を、帰宅途中の会社員や夜のデートに訪れたカップルたちが幸せそうに歩いていた。

“この人たちのためにも、決してテロなど起こさせてはならない!”

 心の中で、その思いを強く感じて人波を見ていた。

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