【現在、ザリバン高原地帯08時05分】
東西を結ぶ道路の爆発音を合図に、敵の攻勢は始まった。
ヤザの率いる部隊が、真直ぐに高原の前線基地に群がる。
敵の激しい銃撃に比べ、前線基地からは散発的な反撃しかない。
「メーデー!メーデー! こちら前線基地。敵の攻撃を受けている。敵兵は約200。繰り返す。こちら前線基地。敵の攻撃を受けている。敵兵は約200」
地下壕の中で、その通信を聞いていた覆面の男が笑う。
空爆の恐れはあるものの、ここを落せば多国籍軍側は大規模な補給が行える拠点を失う。
あとはカナダ軍が粘っている輸送機の墜落現場を挟み撃ちにしてしまうことで、完全に補給路は絶たれ、残存する兵員も孤立するしかない。
これにより多国籍軍側は空爆以外、作戦の選択肢を奪われるのだ。
たとえ一旦占拠した高原の前線基地に空爆を浴びせられたとしても、その際に兵員はこの地下壕に退避すればいい。
そして空爆で破壊された台地には、二度と輸送機が着陸出来はしない。
空挺部隊を投入するにしても、穴だらけの大地では降下直後に怪我をする者も出てくるだろうし、ましてザリバンの拠点のある地下壕と目と鼻の先に空挺部隊を降下させるなど自殺行為に他ならない。
ここを失えば、多国籍軍は完全に補給・援護のない泥沼の戦いに陥ることになる。
そうすればこの拠点に300、東の村に100居る兵の他にも、ザリバンの味方として参戦して来る者は絶えないだろうし、苦戦しているシリアやアフガニスタンの状況も画期的に変わるはずだ。
“勝った”
覆面の男は、そう確信してとっておきの葉巻に火を付けた。
前線基地の方から聞こえる、激しい銃声が崖の上から確認できた。
ハバロフが設置した電話を使い、その事を下にいるモンタナとブラームに伝える。
おそらく敵の攻勢から約1時間後には、この崖の方にも戦火が及ぶ。
その時間にアメリカ兵たちが戻って来たとしても、こちらの兵力は30名ほど。
それまでハンスが手配した応援部隊が来るまで持ちこたえなければならない。
応援の要請を掛けたのは午前2時。
パリから、ここまでの距離は直線で約5500キロだから、どんなに急いだとしても9時間から10時間は掛かるだろう。
それまで、この人数で本当に持ち堪えることが出来るのか……。
最悪の場合、ブラームの分隊は引き上げるとしても、そのための支援をすることになるモンタナ達は捨て駒となってしまう。
その時は……。




