【現在11時5分、ザリバン高原地帯】
「距離、150!」
スコープを覗いているゴードンが伝える。
「まだですか!」
キムが少し興奮気味に、それに反応する。
「まだだ」
応戦できる射手は重機関銃を止めているので20人。
あまり早く打ち過ぎて、残してしまうと厄介だ。
出来るだけ引き付けたいが、近付き過ぎて突進されて中に入られても困る。
だから100mはギリギリの距離。
打ち漏らした敵が突進してきた場合10秒足らずで手榴弾の投てき範囲に入り、20秒足らずで侵入される。
動けない人間を抱えているこの場合、侵入は困る。
数人が侵入し、その対応に手を割いている隙に、次に控えている敵部隊は確実に襲ってくるから。
少ない人数で拠点を離れられない場合は、敵に攻撃の機会を与えないことが重要だ。
「救援は未だか」
「まだ何にも……」
遅いということは、こちらの直接の声は届いていない。
山岳地帯と言う電波にとっては地理的に不利な状況が、発信源の特定さえ困難にさせているのだろうか。
「この敵の攻撃が終わり次第、通信を再開してくれ」
「了解」
「敵の先頭、距離まもなく100!5・4・3・2・1・0」
「無線封鎖解除!各員戦闘開始!」
肩に着けたハンドマイクに攻撃の指示を送り、俺は状況確認のために双眼鏡を覗く。
待ってました!とばかりに味方の銃口が火を噴く。
瞬く間に20人近いザリバン兵が倒れる。
さすがに負傷していても選りすぐりの兵隊たち。
腕は確かだ。
生き残った敵の1/3が怯まず突進を仕掛けてくる。
その中には下顎の無いヤツも居た。
ヘッドショットが僅かに外れたのだろうが、普通なら動けない重傷のはず。
相当の量の麻薬を摂取しているに違いない。
連射に切り替えて、数発当たっても怯まない敵にキムが焦って「こいつらカミカゼかよ!」と無駄口を叩いた。
幸いフジワラは後部ハッチに居るので聞こえてはいないだろうが、傭兵や多国籍軍にあって、ある特定の国を想像させるような言動は、あってはならない。
俺とゴードンの二人で、撃ち漏らした敵を一人ずつ片付けてゆき敵の先鋒部隊を撃破した。
後方に生き残った6人が森へ向かって走って行くのをキムが追い打ちをかけ、そのうち2名を仕留めたが、そこで攻撃を止めさせた。
弾が豊富にあるとはいえ、敵の戦力と救援の目途が立たない今は、無駄撃ちは避けたかった。
それに、戦意を失って戦場から逃げる兵士を打っても無駄なことは、中東に居た頃に分かっている。
案の定、残った4人が森の傍まで辿り着く前に敵の発砲音が響き、4人は草むらに倒れた。
“みせしめ”
正規軍と違い、寄せ集めのテロ部隊では、良くあること。
昔ヤザが“死の結束”と皮肉って呼んでいたことを思い出す。
死から逃げようとする仲間には、容赦なく死が与えられるのだ。
 




