【Is Paris burning?(パリは燃えているか)㉘】
瞬く間に部屋の入り口は机で塞がれ、のびていたDCRIの隊員は縛られ籠城戦。
夕方には事務長のテシューブと将軍、それにエマたちDGSEの幹部連中まで駆けつけての大騒ぎ。
「ハンス君、困るよ。頭を下げに行ったはずの君が、よりによってDCRI本部で籠城騒ぎ。しかも大切なエージェント20人以上に怪我を負わせてしまうなんて」
「事務長、言っておきますがこっちも5人も殴られています。それに中にも10人伸びていますから敵側の負傷者は30人です。ついでに言えば、頭を下げに来たつもりはありません」
「てっ、敵……ハンス君、言葉を選んでもらわないと困りますよ。DCRIは内務省管轄のチャンとした国家組織なのですから……」
「傭兵部隊だってチャンとした組織ですよ。それにこっちも2人伸びている」
「それは、君たちがここで暴れたからでしょう」
「将軍、俺たちを褒めてやってください。仲間がプライドを傷つけられたのを知り、こうして乗り込んできて一般人じゃない、ちゃんとした訓練を受けているはずの敵をこっちの人数の5倍も倒しました」
「ハンス君、だから“敵”と言う表現は……」
「いや、よくやった。さすがに私が見こんだLÉMATの精鋭たちだ」
「しょ、将軍まで……」
テシューブが壁の向こう側で、額から零れる冷や汗を拭いながらアタフタしている様子が手に取るように分かる。
「要求は何ですか?」
明らかに将軍やテシューブとは違う声。
「誰ですか?」と、ハンスが聞く。
「申し遅れたが、私は内務大臣のロークです。私の隣にはDCRIのプローグ局長も居ますから、君の立て籠もった訳を教えてくれませんか」
さすがに大臣だけあって物腰が穏やかで、テシューブみたいに慌ててはいない。
「俺たちが立て籠もっているのは、俺たちの名誉の回復の為です」
「名誉の回復?」
「そうです。今回のパリで起こるかもしれないテロへの対策として、我々LÉMATにも協力の要請があり、それを受けたのは御存じですよね」
「存じています」
「それについて、俺は最初から不安に思っていたことがあった。そして、それが現実のものとなった」
「それは、いったいどういうことかね?」
「国内のテロ対策と言う事で、この作戦を取り仕切るのはDCRIです。これは大臣の直下にある国内のテロ対策組織。そしてもう一つはDGSEで、これも自国の利益を守る重要な組織であることは認めます。では、我々の傭兵部隊はどうでしょう?」
「傭兵部隊だって、今では国防省管轄の立派な軍隊じゃないのかね?」
「建前上はそうですが、本音は違いますよね。ご存じの通り傭兵部隊に居る隊員たちの多くはフランス人じゃない。つまり母国を守るために戦うと言うより、金目当てか単なる戦争好きという印象があるのではないでしょうか。もちろん部隊自体もパトロンが金を出せば何処にだって行きます。ただ、それには一つだけ条件がある。それはフランスの国益のためになるかどうか。そうですよね」
「たしかにその通りだとも。フランスに敵対する所には送れはしない」
「そして国益のためになるなら、国軍が二の足を踏む凄惨な戦場へも先兵として送られる。間違いありませんか?」
「……間違いありません」
「死ぬんですよ。フランスのためにフランス人でもなく、フランスに家族も居ない隊員たちは……。それを分かっていながら俺たちは戦地へと赴く」
たしかにハンスの言う通りだ。
何事もなかったけれど、リビアでの任務も国軍は昼間のパトロールで俺たちの部隊は、最も危険な夜のパトロールを任されていた。
それなのに誰も不平不満も言わず、サボりもせず頑張った。
「ところがどうです? 我々はフランス人から見れば“よそ者、荒くれ者”使い捨ての兵士です」
「わたしは断じて、そんなことは――」
「いいんです。分かっています。理解してくれている人が居ると言う事も知っています。ところがそれを理解していない人にとっては、俺たちが失敗すれば笑いもの。逆に華々しい成功を収めれば、それが妬みの的になる“誰だって出来たのではないか”と。今回我々のナトー二等軍曹はリビアでDGSEと共に諜報活動にあたって華々しい成果を上げ、DGSEより特別に勲章まで頂きました。そしてそのことを快く思わない人達にとって、ナトー二等軍曹はプライドを傷つけられました」
「……」
「問題はそれだけではありません。今回の作戦は垣根を超えた共同作戦です。我々が、そういう扱いを受けているとしたならば作戦の遂行は難しいものとなるでしょう。よって、今回のナトー二等軍曹に対する不当な扱いに対して、明確な責任の所在と謝罪を要求します」




