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【Is Paris burning?(パリは燃えているか)㉖】


 後続の部隊が到着した。

 俺は、自分だけが生き残った事を恥じて、道端に座り込んだまま起き上がれなかった。

「まあ派手に遣られた物ね」

 ドアの開く音と共に、エマの呑気そうな声と、バタバタと周囲に散会する足音が聞こえる。

 うな垂れたまま、ボーっとした目に映るのは、護送車の中から降りてくる完全武装の警官10数人が左右の森の中に消えて行く姿。

「ナトちゃん、大丈夫?」

 エマが優しく俺の横に座り、肩を抱いてくれた。

「俺は大丈夫だが、5人を死なせてしまった」

 力なくその胸に顔を埋めると、また涙が零れ始め、エマが優しく頭を摩ってくれる。

“死んで詫びたい”

 本気で、そう思った。

 散開していた警官たちが慌ただしく戻って来る足音が聞こえる。

「以上ありません。もう、この近辺には居ないようです」

 仲間が死んだと言うのに、気丈に報告する警官たち。

「さあ、ナトちゃん立ちましょう」

 エマが俺の体を起こそうとするが、恥ずかしくて情けなくて悔しくて、そして申し訳なくて全身に力が入らない。

 肩を担がれて、ようやく立ち上がっても、顔は上げられない。

 涙で滲んだ目に映るのは、血まみれになった車のフロントガラス。

「もう、リズ!」

 少し苛立ったようにエマがリズを呼ぶ。

「分かったわよ」

 リズがそう言ってパチンと指を鳴らし「もうイイよ」と声を上げると、弾痕だらけの車両のドアが次々に開き、中から血まみれの警官たちが出てきた。

「ゾ、ゾンビ……」

 思わずワルサーP22を構える俺を、エマの手が止めた。

「違うわよ。チャンと生きているの」

「生きているって……」

「もう、リズ。キチンと説明してあげなさい」

「分かっているわよ。カイル、スイッチ入れておいて」

 カイルと呼ばれたのは、俺の隣に居たドライバー。

 リズが拳銃を取り出して、車のフロントガラスを撃つ。

“パン”という高い発射音と共に、車のガラスには貫通痕が入り、撃たれてもいないのにカイルの防弾チョッキから血しぶきが飛ぶ。

“スナイパー!”

 俺が慌てて敵の発射位置を確かめるように拳銃で身構えると、リズが“違うのよ”と言った。

「ナトちゃん。この車のガラス触ってみて」

 言われるままガラスを触ると、銃弾の当たった後が微かに割れているものの、どこにも貫通痕はない。

「これは?」

「防弾ガラスの裏側に圧力センサー付きの有機ELが貼ってあって、撃たれた箇所にさも穴が開いたように見せかけているだけ」

「じゃあ血は?」

「血は、そのセンサーと連動して、血のりを入れた袋が少量の火薬で爆発して飛び散る仕組みよ」

「ホンモノなのか……」

「偽物よ。臭いはフレーバーでつけてあるの」

「どうして臭いまで」

「だって、臭いが無かったら、ナトちゃん直ぐに分かっちゃうでしょ」

「俺が……それはいったい、どういう事だ?」

「あっ、……その件についてはエマに聞いて! じゃあ私たちはこれで。チャオー♪」

 そう言い残して、リズたちDCRIのメンバーは、そそくさと帰って行った。

「エ・マ。どう言うこと?」

 エマの腕を掴むと“ビクッ”したのが伝わってきた。

 俺は、その手をグイグイ引いて、街に歩いて行く。

 エマが何か弁解していたけれどそれには何も答えないで、近くのホテルを見つけてその部屋にエマを叩き込んだ。

「チャンと説明してもらうわよ」

 指をポキポキ鳴らしながら、睨みつけて言った。


 エマが説明してくれた話はこうだった。

 先日DCRIの本部でリズと対決したことがあった。

 リズは個人的に戦って見たかっただけだと言っていたが。実はリビアで諜報活動道を行った特殊部隊隊員を敵のスパイと想定した模擬訓練だったようだ。

 そして、監視カメラなどで状況を分析した結果、DCRI側の一方的な敗北判定が下ったらしい。

「それと今回の事と、どんな関係が有るの?」

 シーツに包まったままエマに聞く。

「まあ結局、このままでは面目の立たないDCRI側の腹いせね。日本で言うところの“どっきり”」

「ばかばかしい」

「ホント馬鹿馬鹿しいよね。でもね、私たちエリートと呼ばれている人たちはプライドで生きているの。ナトちゃんは確かに強いけれど、相手のプライドには十分気を付けてね」

「エマも、そうなのか?」

 俺は人差し指でエマの唇を触りながら聞いた。

「私も、一応はね」

 そう言うと、エマは体を回転させて俺の上になる。

「でも、ナトちゃんにもプライドがあるものね。今度から絶対に隠し事はしないから、たとえ失敗したと思っても武士みたいに自らの命を絶っては駄目よ」

「うん」

 鼻がツンとして、また涙が出て来そうになり、それを隠すためにエマに抱きついた。

「もう、意外に甘えっ子なんだから」

 エマが優しく、それを受け止めてくれた。

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