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【現在、ザリバン高原地帯06時30分】


<ザリバン地下壕本部>

「ヤザ、どこへ行くつもりだ」

 地下壕の本部らしき場所で、黒い覆面をしてパソコンを見ていた男が武器を持って部屋を出て行こうとするヤザを止めた。

「そろそろアメリカ軍救援部隊が着く頃だから、落としに行く」

「待て」

「なぜ、待たなければいけない? 恰好のチャンスじゃないか」

「アメリカ軍の救援だと言っても、いいところ10人くらいだろう」

「どうして、そう言い切れる?」

「麓にある本部には、もう出せる戦闘部隊は残っていない。それは俺が居たから分かる事で、シリアからも応援を出せる余裕はない。傭兵部隊が本国に応援を出したみたいだけど、落下傘降下に不向きな山岳地帯だから、それが到着するのは明後日だ。その頃には俺たちはもうここには居ない。たかが10人のことで、目の前の100人と前線基地を壊滅させる目的が狂わされるのは困る」

「もう狂っているとしたら?」

「それはない」

「なぜそう言い切れる。崖の上にはナトーの居る部隊が居るんだぞ」

「ナトー? あの手こずらせやがった狙撃兵か……」

「ああ、あいつは頭がいいから、ここに俺たちの本部がある事に気が付いているかも知れない。なぜトーチカを放棄した」

「偉くそのナトーと言う狙撃兵にご執心のようだが、トーチカも取られていないから、ここに本部がある事も気が付いちゃいないだろうよ」

「どうして、それが分かる」

「トーチカには三重の罠を仕掛けておいた。一つはありふれた自爆装置だから罠に詳しい奴なら簡単に見つけられるかもしれない。だがあとの二つは専門の知識がないと解除できないばかりか、解除しようと手を出した途端泥沼に陥る。そのナトーと言う奴が賢かったとしても、たかが狙撃兵の知識で解除するのは不可能なばかりじゃなく、専門の知識があったとしてもそれを補助する奴が必ずミスをする仕組みだ。だからトーチカから爆発音が聞こえない以上、奴らはトーチカも、ここを発見できてはいない」

「偉い自信だな、この裏切者め」

「おいおい、味方を裏切者呼ばわりするのはよしてくれよ」

「ヤザ。言葉が過ぎるぞ」

 今迄洞窟の奥で2人の会話を聞いていたザリバンの創始者、アサム・シン・レウエル氏がゆっくりと歩み出てヤザを窘めた。

「ヤザも頑張ってくれたが、情報を漏らして、この作戦を立案してくれたのはこの者のおかげだ。思わぬ抵抗に遭い多数の犠牲者を出したものの、作戦は順調に進んでいる」

「ですがアサム様……」

「焦る気持ちも分かるが、この作戦が終わるまで残すところ数時間。それまでここに残って待て」

 ヤザはアサムの言うことに従った。


<崖の上>

 暁と共にアメリカ軍のヘリの音が聞こえてきた。

「周囲の警戒を怠るな!」

 崖の上、そして崖の下からRPGの射程範囲に兵を散会させて厳重に警戒に当たらせた。

 ヤザなら、この好機は逃さないはず。

 しかし、敵は出てこなかった。

 予定通りの着陸地点に降りてきたのは旧式のチヌーク。

 その大型の機体に反して、降りてきた兵士は、たったの12人と依頼しておいたオフロードバイク。

「これだけか?」

「ああ、すまない。今回はやられ過ぎて、あと基地に居るのは後方支援の兵士と負傷兵だけだ」

「仕方ないな」

「挨拶が遅れたが、海兵隊のスタンレー中尉だ」

「LéMATのナトー二等軍曹だ。応援感謝する」

「ナトー軍曹、会えて光栄だ。基地じゃ今、君の噂で持ち切りだ。なにせ一人の死者も出さず落ちた輸送機を守り抜いたんだからな」

「ありがとう。ただ、俺だけではそれは出来なかった。皆のおかげだ」

「さすがだぜ」

 そう言ってスタンレー中尉は俺の手を握って驚いた。

「意外に柔らかいな」

「昔から華奢なもので……」

 作戦名簿にも性別の記載ないし、自ら女だとは言いたくはなかった。

 俺が女であることは、間接的に作戦自体に影響するから。

「ところで、依頼しておいた内容は進んでいるか?」

「ああ、きっちりあと30分後には始まる。でも、それだけで本当にいいのか?」

「ああ、それさえあれば、状況は極端に変わるはずだ」

 俺が依頼した内容は二つ。

 ひとつは、イリジュウムの通信回線を切ること。

 ふたつ目は――。

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